日本・米国・EUの動画配信ルール――適用条件を制度ごとに確認する
動画配信の義務は国名だけで決まらない。事業者の設立地、利用者、配信方法、扱う情報、テレビ放送との関係を分けて確認すると、適用範囲を判断しやすい。
- EUの視聴覚メディアサービス指令(AVMSD)は、対象のオンデマンド配信に適用される。配信作品の一覧である作品目録の30%以上を欧州作品にし、目立たせるよう求める。資金拠出には、欧州作品への直接投資や加盟国基金への支払いが含まれる
- 米国の児童オンラインプライバシー保護法(COPPA)は、13歳未満向けサービスが子どもの個人情報を収集、利用、開示のいずれかを行う場合に適用される。一般向けサービスは、運営者が13歳未満の子どもから個人情報を収集していると実際に知る場合に対象となる
- 日本の許諾推定は、法定要件を満たす放送事業者への番組提供に関する契約で、放送利用の許諾に放送同時配信等の許諾も含むと一旦扱う制度だ。放送同時配信等とは、同時配信、追いかけ配信、期間限定の見逃し配信を指す。権利者が契約時に放送同時配信等を許さない意思を示せば適用されない。これは反対の証拠で覆せる推定だ。委託制作会社を介す契約も対象になり得るが、独立したオンデマンド配信一般には広がらない
概要
動画配信の義務は、設立地、視聴者、情報、配信方法、テレビ放送との関係で変わる。国名だけでは決まらない。
経緯
視聴覚メディアサービス指令(AVMSD)は、対象のオンデマンド配信に、作品目録の30%以上を欧州作品とし、目立たせるよう求める。
資金拠出には、欧州作品への直接投資や加盟国基金への支払いが含まれる。資金拠出を課す加盟国は、域内の別の国に設立され、自国の視聴者を対象とする事業者にも負担を求められる。
AVMSD第13条第3項では、視聴者を対象にする加盟国で得た売上だけを計算に使う。負担はその売上に見合うものとし、国内外を差別してはならない。
設立地の加盟国も拠出を課す場合は、視聴者側の加盟国が課した拠出を考慮する。売上か視聴者が少ない事業者は対象外となる。
サービスの性質や題材により義務の履行が難しい場合や、義務を課すことを正当化できない場合には、加盟国が免除できる。
欧州視聴覚オブザーバトリー(European Audiovisual Observatory、欧州評議会の映像産業調査機関)は、各国制度を比較している。
児童オンラインプライバシー保護法(COPPA)は、13歳未満向けサービスが子どもの個人情報を収集、利用、開示のいずれかを行う場合に適用される。
一般向けサービスは、運営者が13歳未満の子どもから個人情報を収集していると実際に知る場合に対象となる。
限られた例外を除き、収集前に保護者へ通知する。保護者本人によるものと確認できる方法で同意を得る。
映像プライバシー保護法(VPPA)は、対象事業者が、利用者と、その利用者が求めた特定の映像を結び付ける個人識別情報を故意に開示することを原則制限する。例外もある。
構造解釈:テレビ放送の有無でネット字幕の条件を分ける
連邦通信委員会(FCC、米国の通信規制機関)のネット字幕規則は、免除対象でない番組に適用される。
対象となる全編配信とは、番組をほぼ全体のまま届ける場合を指し、再生時間の長短だけでは決まらない。
編集していない事前収録番組は、2012年9月30日以後に米国のテレビで字幕付き公開されたかが基準になる。
生放送と生放送に近い番組は、2013年3月30日以後に米国のテレビで字幕付き公開されたかが基準になる。
ネット向けに編集した事前収録番組は、2013年9月30日以後に米国のテレビで字幕付き公開されたかが基準になる。
FCC規則の対象となる番組の抜粋動画(指定クリップ)とは、番組を字幕付きで米国のテレビに出した提供者または配信者が、その番組の一部を自社サイトやアプリへ載せる動画だ。
関連番組をテレビに出す前から、同じ提供者か配信者のライブラリーにあった指定クリップは対象外となる。
一つの抜粋を使う指定クリップは、関連番組が2016年1月1日以後に米国のテレビで公開されたかが基準になる。
複数の抜粋を収める指定クリップは、関連番組が2017年1月1日以後に米国のテレビで公開されたかが基準になる。
生放送か生放送に近い指定クリップは、関連番組が2017年7月1日以後に米国のテレビで公開されたかが基準になる。
生放送の指定クリップは、関連番組を字幕付きで米国のテレビに出し終えてから12時間以内に字幕を付ける。
生放送に近い番組は、初回テレビ放送前24時間未満に実演され、かつ収録された番組だ。その指定クリップは、関連番組を字幕付きで米国のテレビに出し終えてから8時間以内に字幕を付ける。
示唆:規制される行為ごとに契約と配信機能を管理する
日本で作品をネット公開するには、不特定または多数へ送る公衆送信権が関係する。求めに応じて送れる状態にするのが送信可能化だ。
放送同時配信等(同時配信、追いかけ配信、期間限定の見逃し配信)は、放送に付随する。許諾推定は、法定要件を満たす放送事業者への番組提供契約に限る。
契約相手が放送事業者か、委託を受けた制作会社かだけでは決まらない。要件を満たす放送事業者への番組供給と契約内容で判断する。
権利者が契約時に放送同時配信等を許さない意思を示さなければ、放送の許諾にその配信も含むと一旦扱う。反対の証拠で覆せる推定だ。
許諾推定は、放送に付随しない独立したオンデマンド配信一般を許す制度ではない。
各制度の条件、例外、期限、根拠を機能ごとに記録する。
- EUの指令見直しで、欧州作品の比率、目立つ表示、資金拠出の条件が変わるか
- 米国で、子どもの個人情報、視聴情報、ネット字幕の適用条件や例外が変わるか
- 日本で、放送同時配信等と独立したオンデマンド配信の権利処理が変わるか
— Sources / 情報源
- EUR-Lex: Audiovisual Media Services Directive(オンデマンド動画配信の適用範囲と欧州作品30%)
- European Commission: AVMSD General Principles(技術中立・段階的規制)
- FTC: COPPA Policy Statement(子ども向けオンラインサービスと年齢確認)
- Congress.gov: Twenty-First Century Communications and Video Accessibility Act(インターネット動画の字幕)
- 文化庁: ここが知りたい著作権(インターネット動画と自動公衆送信)
- 文化庁: 放送同時配信等の許諾推定ガイドライン(放送とネット配信の権利処理)
- Cornell Legal Information Institute: 18 U.S.C. § 2710 Video Privacy Protection Act
- European Commission: AVMSD Brochure(欧州作品、目立つ配置、適用除外)
- European Audiovisual Observatory: VOD事業者の欧州作品への資金拠出
- FCC: Captioning of Internet Video Programming(字幕付きテレビ番組のネット配信)
- FTC: Complying with COPPA Frequently Asked Questions(適用対象と保護者同意)
- FCC: 2014 Second Report and Order(ネット配信クリップの字幕)
- 文化庁: 令和3年著作権法改正の概要(放送同時配信等の許諾推定)
- Cornell Legal Information Institute: 47 C.F.R. § 79.4(ネット配信映像の字幕規則)