iQIYI「AI俳優ライブラリ」に俳優が反発 — 微短劇の 95% が AI 生成、人間の出演料は崩落
iQIYI が 100 名超規模の「AI 俳優ライブラリ」を公表すると、張若昀・于和偉ら俳優が無許諾だと相次いで否定した。背景には四半期の微短劇の 95% が AI 生成という供給構造の反転があり、中堅俳優の出演料は 1 話数千元から千〜二千元へ崩れている。プラットフォームの AI 内製化と人間の制作現場が正面衝突する局面に入った。
概要
中国の動画配信大手で異変が起きた。[iQIYI]が 4 月に「AI 俳優ライブラリ」を公表すると、名を挙げられた俳優たちが「許諾していない」と次々に否定したのである。
ライブラリは AIGC(AI による自動コンテンツ生成)の制作者と俳優側を引き合わせる仕組みで、100 名超の俳優が入居同意書に署名したと報じられた。だが俳優の張若昀(ジャン・ルオユン)の事務所は、AI 関連の許諾は一切しておらず法務が緊急対応中だと表明した。于和偉(ユー・ホーウェイ)の事務所も同様に否定した。iQIYI 側は、ライブラリ掲載は AI 制作に参加する意向を示すだけで特定企画への同意ではない、と釈明している。
この騒動は単発の炎上ではない。背景には、微短劇(数分尺の縦型連続ドラマ)の供給が AI 生成に急速に置き換わっているという構造変化がある。プラットフォームが俳優を「データ化」して内製に取り込む動きと、人間の制作現場の利害が正面から衝突し始めた。
経緯
発端は 4 月 20 日の業界会議だった。iQIYI はこの場で「AI 俳優ライブラリ」を打ち出し、創業者の龔宇(ゴン・ユー)が将来像を語った。
龔宇の発言は刺激的だった。曰く「技術的含意のない実写撮影は、いずれ無形文化遺産になるかもしれない」。実写の人間俳優による制作が AI に置き換わりうる、という含意である。これに対し張若昀・于和偉ら俳優・事務所が、AI 肖像の許諾契約は結んでいないと相次いで声明を出した。iQIYI は再度の釈明で、ライブラリに張若昀と于和偉は含まれていないと一部報道を否定し、許諾は特定企画・特定役柄に限られ他企画には及ばないと説明した。
俳優側が敏感に反応した理由は、肖像をめぐる法的リスクにある。中国では、AI 生成画像でも「公衆が識別可能」なら肖像権侵害と認める判断が出ている。21 世紀経済報道はこの分野の課題として、次の三点を挙げる。
- 和解額が低く抑えられがちな点(永続的な顔の利用に 500 元という例)
- 侵害コンテンツが速やかに削除され証拠保全が難しい点
- 侵害側の利益が、裁判所の認定する賠償額を大きく上回る点
換脸(かおの差し替え)や複数の有名人の顔の特徴を合成する手法が、規制の追いつかない灰色地帯になっている。
構造解釈:供給が AI に置き換わる
この騒動の本質は、微短劇の供給構造そのものが反転した点にある。
数字がそれを示す。中国網絡視聴協会の第 1 四半期創作指南によれば、2026 年第 1 四半期に公開された微短劇は約 12.8 万本で、うち AI 微短劇が約 12.2 万本と 95% 超を占めた。3 月だけで約 5 万本の AI 微短劇が Douyin(ドウイン、中国国内向け TikTok)に上がり、単月の投入量が 2025 年の年間総量にほぼ並んだという。供給の主役は、わずか数年で人間の撮影から AI 生成へ移った。
なぜここまで急いだのか。経済合理性が圧倒的だからである。AI 制作は実写の約 10 分の 1 のコストで済む。工期も実写短劇の 15〜30 日に対し、AI なら 1〜5 日で仕上がる。澎湃新聞が引く毎日経済新聞の取材によれば、1 本あたりの制作費は数十万〜百万元超から十数万元規模へ落ちたという。制作チームの産出も、従来の月 1 本から週 3〜5 本へ跳ね上がった。プラットフォームにとって、人間の俳優を「AI 俳優ライブラリ」として在庫化する誘因は、この圧倒的なコスト差から生まれている。
ただし供給量と視聴は一致しない。同じ統計では、実写ドラマの公開本数は AI の約 50 分の 1 ながら、総再生数は AI の 25 倍に達したという(春節期のデータ)。AI が量を支配しても、視聴者の時間は依然として人間の演技に集中している。量と質の乖離が、現在の構造の最大の緊張点である。
示唆:人間の演技は何で守られるか
iQIYI の事例は、配信プラットフォームが制作の上流まで AI で内製化する流れの先触れと読める。供給が AI に傾く一方で視聴は人間の演技に集まるこの乖離を、各社がどう調整するかが次の焦点になる。
- 肖像の許諾と対価の制度設計。俳優の「データ化」が進むほど、許諾範囲・期間・利用シーンを書面で限定し、侵害に懲罰的賠償を効かせる枠組みが要になる
- プラットフォームの分配政策。供給が AI に傾く一方で視聴は人間に集まる乖離を、分配率や奨励でどう調整し、実写の制作を支えるか
- 「新鮮期」の短命化への耐性。ヒット作の寿命が 3〜4 週に縮み、量産の経済性そのものが逓減しうる。AI 内製化が本当に持続的な利益を生むかは未立証