百度、AI 微短劇の「製作工房」Hogee を内測 — 検索大手がコンテンツ供給網の最下層に降りる
検索大手が、ドラマの「作り方」そのものを月額 SaaS にする。百度智能云の Hogee は脚本解析から分鏡・数字人までを AI エージェントで通し、制作費を従来比で大幅に削ると謳う。配信プラットフォームの下に、製作を担う供給層として垂直に入り込む動きだ。
概要
検索大手が、微短劇(ウェイドゥアンジュ、1 話数分の縦型ショートドラマ)の「作り方」そのものを売り始めた。百度 の企業向け部門である百度智能云は 4 月 30 日、AI 制作プラットフォーム「Hogee(フージー、慧格)」のウェブ版の内部テストを開始した。
Hogee は、脚本の解析から分鏡(コンテ、各カットの構図・流れの設計)、撮影に相当する映像生成、編集、声入れまでを一つの画面に束ねた制作工房をうたう。基盤は百度が自社開発した「OpenClaw」という数字員工(デジタル従業員、人の役割を肩代わりする AI エージェント)の体系だ。脚本担当・コンテ担当といった従来チームの職種を AI エージェントが代替し、作り手は手を動かす実行者から「演出を決める監督」へ移ると同社は説明する。
対象は個人クリエイターではなく、微短劇の制作会社や小規模チーム、MCN(複数の配信者をまとめて運営する事業者)である。百度は実写ドラマと比べて制作費を 70〜95% 下げられると主張し、3〜12 人の小チームと 10 万元(約 200 万円)以内の予算で「億級」の再生回数を狙えると位置づける。アプリ版も近く投入する計画だ。
経緯
百度がこの工房を出した背景には、二つの圧力がある。一つは本業の停滞だ。報道によれば同社の年間収入は前年から減り、検索広告を軸とした稼ぎ頭が伸び悩む。もう一つは AI コンテンツの供給爆発である。ショートドラマは中国で巨大な市場に育ち、IT之家の報じた百度のイベント資料では年間の新作が 4.7 万本、再生は 760 億回に達したとされる。
百度はこの市場へ段階的に降りてきた。まず 2026 年 1 月に、AI 漫剧(マンガ調アニメドラマ)の業界向け解決策を発表した。Hogee はその構想を微短劇の現場に落とし込んだ実装版にあたる。
5 月 14 日には北京で開いた開発者会議で、百度智能云は Hogee を中国初の全链路(フルチェーン、企画から収益化まで一気通貫)の AI 短劇制作工房と打ち出した。同社が示したのは五層の生態系で、これらを縦に積む構図である。
- 20 万件超の IP 供給
- 映像生成や素材処理の AI 道具
- SaaS 型の制作面
- 日次の利用者が 1 億を超える配信面(百度 App・好看視頻・柚漫劇など)
- 海外展開
百度智能云の幹部は、AI が単に応答する道具から自律して働くエージェントへ移る転換だと述べた。
構造解釈:製作を「下から」握る垂直参入
Hogee の本質は、新しい配信サービスではなく、配信の下を支える「製作層」への垂直参入である。
これまで AI 動画の話題は、抖音傘下の 紅果 など配信プラットフォームが AI 短劇のヒットを出した、という「面」の側で語られてきた。視聴者が集まる場所が強い、という構図だ。だが Hogee が触るのはその一段下、誰がどうやってドラマを量産するかという供給網の最下層である。脚本・コンテ・出演(数字人=AI が生成する人物像)を SaaS 化し、月額で貸し出す。基本版は月 89 元から上位の 259 元までのレンジで、企業版は個別見積もりという価格帯だ。
これは検索やクラウドを売ってきた技術大手にとって自然な拡張だといえる。自社の計算基盤と AI エージェントの上に、業種特化の道具を載せて月額課金へ変える。コンテンツ業界の言葉でいえば、百度は「作品」を作るのではなく「作品の作られ方」を押さえにいく。ヒット作の取り分を狙う賭けではなく、誰が当てても課金が立つ「つるはし売り」の位置取りである。
ここで効いてくるのが力関係だ。配信プラットフォームは視聴者と再生データを握り、強い交渉力を持つ。一方で道具の提供者は、量産の効率という別の梃子を握る。供給が爆発するほど、安く速く作れる工房の価値は上がる。百度はその梃子を取りにいったと読める。
示唆:AI 製作 SaaS が崩す「作る・配る」の境界
Hogee の登場は、コンテンツ産業で長く分かれていた「作る側」と「配る側」の境界をにじませる。技術大手が製作工程を月額で貸す構図が定着すれば、誰でも工房を借りて量産できる。供給はさらに増え、配信面での選別と推薦の重みが増す。