YouTube、1 日視聴時間で Netflix を逆転 — 99.1 分対 93.4 分、アテンションの主役が交代
Digital i の計測で、YouTube の 1 アカウント当たり 1 日視聴が 99.1 分に伸び、93.4 分に落ちた Netflix を上回った。だが Netflix は YouTube 上で最も到達するチャンネルでもある。
概要
動画視聴の主役が、静かに入れ替わった。英国の視聴者データ分析会社 Digital i(デジタルアイ)が 6 月 3 日に公表したレポート「The YouTube Era: 2025 in Review」によると、YouTube の 1 アカウント当たりの 1 日平均視聴時間は 2024 年の 87.2 分から 2025 年に 99.1 分へ伸びた。同じ期間に Netflix は 100.5 分から 93.4 分へ落ち、両者の順位が逆転した。
この計測は世界 20 の国・地域のパネルに基づく。国別では韓国が 1 日 161.5 分と最も長く、伸び率はフランスが前年比 +33.6% で最大だった。Google 傘下の無料動画プラットフォームが、定額制配信の代表格を「視聴時間」という最も基礎的な指標で上回った。その意味は、単なる順位の交代にとどまらない。
経緯
逆転を準備したのは、YouTube の視聴が起きる「場所」の移動である。Digital i の計測では、YouTube の総視聴時間に占める TV 画面の割合は 2024 年初の 28% から 2025 年末に 35% へ上がり、モバイルは 35% から 31% へ縮んだ。スマホで眺める短い動画という像から、居間の大画面で腰を据えて観るメディアへと、YouTube は重心を移している。テレビの前の時間を奪い合う相手として、Netflix と正面からぶつかる位置に来たということだ。
ところが同じレポートは、両者の関係が単純な敵対ではないことも映し出す。2025 年に YouTube 上で最も多くのアカウントに到達したチャンネルは、ほかならぬ Netflix の公式チャンネルで、その数は 7,820 万に上った。Netflix は予告編や独占映像を YouTube に流し、加入へ誘導する最大級の「出し手」でもある。視聴時間を奪われる競合でありながら、YouTube という土俵を自社マーケティングに使い倒している。
構造解釈:動画サイトから「アテンションの基盤」へ
ここで起きているのは、YouTube が一介の動画サイトから「アテンション(人々の可処分注意)の基盤」へと格上げされる構図である。Digital i の最高分析責任者マット・ロス(Matt Ross)は TVBEurope に対し、YouTube がソーシャル動画サービスから世界を支配するアテンション基盤へ進化したことを、この 10 年を画するメディア転換の一つだと評した。視聴時間という通貨で測れば、いまや YouTube は最大の保有者だ。
この構図が Netflix に突きつける問いは重い。Netflix は良質な独占作品に巨費を投じ、ストック(作品在庫)の強さで観る時間を確保してきた。対して YouTube は、世界中の作り手が無償で供給する膨大なフロー(流れ続ける新着)と、推薦アルゴリズムで時間を積み上げる。制作費をかけずに視聴時間を伸ばす仕組みは、一本ごとに投資判断を迫られる SVOD とは費用構造が根本から違う。しかも Netflix 自身が、その YouTube に出稿して加入を取りに行く——競合の土俵で集客せざるを得ないところに、アテンション基盤を握られた側の非対称が現れている。
居間の大画面が主戦場になるほど、この非対称は効いてくる。テレビを点けて最初に開くアプリがどれか、という入口の争いで、YouTube は無料・無限・即時という強みを持つ。Netflix の「観たい一作」が入口を取り返せるかが、次の勝負どころになる。
示唆:広告とリビングルームでの再戦
視聴時間の逆転は、収益化の主戦場が「リビングルームのアテンション」へ移ることを示す。YouTube は奪った時間を広告(とりわけ伸びる CTV=コネクテッド TV 広告)で換金でき、Netflix も広告付きプランで同じ土俵に降りてきた。観る時間の奪い合いは、そのまま広告収入の奪い合いに直結する。
ただし留意すべきは、この逆転が Digital i 単独の計測パネルに基づく点だ。アカウント当たりの 1 日視聴という指標の取り方や対象市場の構成で数字は動きうるため、Barb や Nielsen など別の計測との突き合わせが要る。