UMG、アックマン保有株を €250M で買い戻し — パーシング・スクエア完全撤退で5年の攻防に幕
644 億ドルの買収提案を断った UMG が、わずか6日後に アックマン の保有株を買い戻した。Pershing Square は全保有を処分して完全撤退。拒否から撤退へ、自社株買いが出口になった。
- UMG が パーシング・スクエアから自社株 14,156,285 株を 1 株 €17.66・総額約 €250M(約 2.9 億ドル)で買い戻したと 6 月 4 日に発表
- アックマンのファンドは UMG 全保有を処分して完全撤退。644 億ドル買収提案の拒否(5 月 29 日)からわずか 6 日で、5 年の関係が終わった
- 買い戻しは 5 月 13 日株主総会で承認された追加 €500M 枠で実行。拒否時に掲げた『買収によらない価値向上策』を、撤退の受け皿として使った形
概要
世界最大の音楽企業 UMG が、物言う投資家 ビル・アックマン の保有株を買い戻した。UMG は 6 月 4 日、パーシング・スクエアのファンドから自社の普通株 14,156,285 株を、1 株 €17.66・総額およそ €250M(約 2.9 億ドル)で取得したと公式に発表した。
これはパーシング・スクエアが UMG 株の全保有を処分する一環だった。同ファンドは保有株すべてを市場で売却(オーバーナイト・プレースメント=時間外の一括売り出し)しており、UMG はそのうちの一部を直接買い取った。報道によれば、パーシングは計約 8,060 万株を売り出し、投資全体で 6 億ドル超の利益を見込んでいたとされる。
買い戻しは、既存の €500M 自社株買いプログラムの「外」で、5 月 13 日の年次株主総会で承認された追加の €500M 枠に基づいて実行された。取得した株は、2022 年のグループ株式報酬プランの履行や資本の削減に充てるという。
経緯
この買い戻しは、買収を巡る攻防の直後に起きた。UMG 取締役会は 5 月 29 日、パーシング・スクエアによる 1 株 €30.40・総額約 644 億ドルの買収提案を全会一致で拒否したばかりだった。提案は UMG を本質的かつ著しく過小評価している、というのが拒否の理由である。買収案そのものは、UMG を米ネバダ州法人に作り替え、上場の場を欧州から NYSE(ニューヨーク証券取引所)へ移すという構想だった。筆頭株主のフランス ボロレ(約 28% 保有)が「価格が見合わない」と反対し、提案は退けられた。
拒否からわずか 6 日後の今回の取引で、アックマンと UMG の関係は幕を閉じた。両者の縁は 2021 年夏に始まる。当初アックマンは取締役会の友好的な後ろ盾だったが、約 5 年を経て、関係は失敗に終わった巨額買収提案で終わった。発表日の UMG 株は €18.36 で、拒否後の 5 営業日で約 6.5% 下げていた。なお買い戻しの価格 €17.66 は、その水準をさらに下回る。
構造解釈:自社株買いで『物言う株主』の重しを取り除く
今回の取引の核心は、UMG が拒否時に掲げた「買収によらない価値向上策」を、撤退の受け皿として使った点にある。前回の局面で UMG は、自社株買いの倍増・Spotify 株の売却・開示強化という自前の打ち手を示し、アクティビストの主張を「経営権を渡さずに」取り込む構えを見せた。その自社株買いの枠が、今度はアックマン自身の保有株を吸収する道具になった。
ここで効いたのが、株主総会で前もって取っておいた追加の €500M 枠である。会社が買い戻す現金の準備をしておいたことで、パーシングが全株を売り出した局面で、その一部を会社自ら引き取れた。物言う株主が大量の株を市場に放出すると、需給が崩れて株価を押し下げる「オーバーハング(売り圧力の重し)」が生じやすい。UMG はその重しを、自社株買いで部分的に吸収してみせた。
つまり構図はこうだ。買収提案を価格で拒み、筆頭株主の拒否権で防ぎ、最後に自社株買いで相手の出口を引き取る。敵対的な提案を、会社のキャッシュと株主構成で受け流し、活動家を「割安で買い、割安で送り出す」結末に持ち込んだ。事業の中身を変えずに、資本政策だけで攻防を完結させた格好である。
示唆:撤退後、株価の開きを自前で埋められるか
アックマンは去ったが、彼が突いた論点――UMG 株は欧州上場ゆえに割安に放置されている――は残ったままだ。買収提案の €30.40 と、買い戻し価格 €17.66 の隔たりが、その開きの大きさを物語る。UMG はこれからも、自社株買いと開示強化という自前の手段で、この差を縮められるかを問われ続ける。活動家の退場は、むしろ「言い訳のきかない自助」の始まりでもある。
- 株価が買い戻し価格をどこまで上回って回復するか。€17.66 で会社が引き取った株が、その後どれだけ評価を戻すかが自助策の通信簿になる
- 残る追加 €500M 枠の使い道。会社が買い戻しをどこまで続け、1 株あたり価値の向上にどれだけ回すか
- 別の物言う投資家が現れるか。割安という論点が消えていない以上、上場地の移転や事業分割を再び迫る動きが形を変えて出てくる可能性がある
— Sources / 情報源
- Universal Music Group N.V.(公式): Announces Repurchase of 14.156 million of its Ordinary Shares from Pershing Square Funds(PR Newswire)
- Music Business Worldwide: UMG spends $290m buying back stock from Bill Ackman's Pershing Square, amid fund's exit from music company
- Billboard Pro: Universal Purchases Part of Bill Ackman's Pershing Square Shares in UMG
- Reuters (via U.S. News): Universal Music Buys Back Part of Ackman's Pershing Stake After $64 Billion Bid Fails
- Universal Music Group N.V.(公式): Board of Directors Declines Unsolicited Pershing Square Proposal(PR Newswire・5/29 拒否時)