広告・収益化 · Advertising & Monetization

テンセント Q1 広告収入 +20%、AI が動画広告を再加速 — 視頻号の利用時間も +20%

中国の動画ビジネスでマネタイズの軸が「コンテンツ課金」から「AI 駆動広告」へ傾いている。テンセントは 2026 年 Q1 で広告収入を 20% 伸ばし、AI による配信最適化が利幅を押し上げた。ビリビリの広告 30% 増と並べると、中国動画広告の AI 化という共通の地殻変動が見える。

TL;DR — 3 行で読む
  • テンセントの 2026 年 Q1 は総収入 1,964.6 億元(+9%)、うち広告(マーケティングサービス)が 382 億元(+20%)と全社を上回って伸びた
  • 成長の主因は AI による広告配信の最適化で、短尺動画「視頻号(ビデオアカウント)」の総利用時間は前年同期比 +20% 伸びた
  • ビリビリも広告 30% 増と歩調を合わせ、収益の重心は AI 広告へ移りつつある

概要

中国の動画ビジネスで、稼ぎ方の軸が動いている。視聴者から会費を取る「コンテンツ課金」から、AI で精度を上げた広告へと、重心が傾きつつある。

テンセント(騰訊、中国の IT 大手)は 5 月 13 日、2026 年 1〜3 月期(Q1)決算を発表した。総収入は 1,964.6 億元(約 4 兆円、前年同期比 +9%)。このうち広告事業にあたる「マーケティングサービス」収入は 382 億元(+20%)と、全社の伸びを大きく上回った。会社側はこの加速の主因を、AI による広告配信の最適化だと説明している。

注目すべきは伸びの「質」である。広告枠を増やしたのではなく、同じ枠の当て方を AI で賢くした結果として単価が上がった、という構図だ。テンセントは決算資料で、AI 駆動の広告レコメンドモデルを刷新し、ウィーシン(WeChat、中国版 LINE にあたる対話アプリ)内の閉ループ型マーケティング機能を拡張したと説明する。これが広告効果と価格の改善につながったという。自動運用ツール AIM+ は、広告主の支出の約 3 割をすでに処理しているとする。

経緯

テンセントの広告は、もともと検索や SNS を持つアリババやバイトダンスに比べ「数字を取りにくい」領域とされてきた。流れを変えたのが、ショート動画「視頻号(ビデオアカウント)」とウィーシン経済圏に AI 配信を組み合わせる戦略である。今期、ビデオアカウントの総利用時間は前年同期比で 20% 超伸びた。広告を載せる「時間」が増えた格好だ。

この流れはテンセント単独の現象ではない。同じ Q1 に、動画共有大手の ビリビリ(哔哩哔哩)も決算を出している。総収入は 74.7 億元(+7%)にとどまったが、広告収入は 25.9 億元(+30%)と二桁成長を続け、四半期ベースの黒字回復を牽引した。ビリビリの陳睿(ルイ・チェン)CEO は「AI がコンテンツ制作・発見・収益効率のあらゆる段階を加速させている」と述べ、広告効率の改善を成長の核に据えた。

両社に共通するのは、視聴者数そのものの急拡大ではなく、既存の利用時間を AI でより高く現金化する動きだ。ビリビリの月間利用者は 3.76 億人、1 日あたりは 1.15 億人で、伸びは一桁台にとどまる。それでも広告が 30% 伸びたのは、配信精度と広告商品の改善が効いたからにほかならない。

構造解釈:AI が広げる「同じ視聴時間の単価」

ここで起きているのは、中国動画広告の「AI 化」と呼べる地殻変動である。鍵は、視聴時間あたりの広告収益(いわば 1 分の値段)を AI が押し上げている点にある。

従来、動画プラットフォームの広告成長は「利用者を増やす」か「広告枠を増やす」かに依存した。だが利用者の伸びが鈍り、枠を増やせば視聴体験を損なうジレンマに各社は直面してきた。テンセントとビリビリが今期示したのは、第三の道——同じ利用時間の単価を上げる——である。AI が「誰に・どの広告を・いくらで」当てるかの精度を高めれば、枠も利用者も増やさずに収益は伸びる。テンセントの「広告効果と価格の改善」、AIM+ による支出の 3 割自動化は、まさにこの単価向上の現れだ。

この構造は、長尺動画の収益モデルにも影を落とす。テンセント・ビデオ(騰訊視頻)を抱えるテンセントが今回の決算で前面に出したのは、長尺動画の有料会員ではなく、AI 広告と短尺のビデオアカウントだった。実際、有料 VAS(付加価値サービス)会員数は 2.66 億人と前年からほぼ横ばい(-0.7%)にとどまる。コンテンツへの課金(ストック型)よりも、AI が回す広告(フロー型)のほうが、足元の成長エンジンとして語られている。

つまり、長尺動画は「会員基盤の安定装置」として下支えに回り、成長の物語は AI 広告が引き受ける——そんな役割分担が、決算の語り口から透けて見える。

示唆:マネタイズの重心はどこへ動くか

中国動画大手の決算が示すのは、稼ぎ方の重心が「課金」から「AI 広告」へ静かに移る局面だ。ウィーシンという巨大な閉ループを持つテンセントの手法がそのまま他国に移植できるとは限らないが、「同じ視聴時間を AI でより高く売る」という発想自体は普遍的で、中国勢の四半期はその先行指標として読む価値がある。

WATCHLIST — 次に追う 3 つ
  1. AI 配信が「単価」をどこまで押し上げ続けられるか。AIM+ が支出の 3 割を超えて常態化したとき、伸び率が鈍化に転じる兆しがないか
  2. 長尺動画の有料会員と AI 広告の「役割の綱引き」。テンセント・ビデオ が会員数を主指標として打ち出し続けるか、広告寄りの開示にシフトするか
  3. この「AI 広告化」がどこまで波及するか。「同じ視聴時間を AI でより高く売る」発想に、Netflix の広告プランや国内各社の AVOD がどう応じるか

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