Paramount、Netflix の「焦土作戦」を司法省に告発 — WBD 買収戦は規制ロビーの第 2 ラウンドへ
WBD を買う権利は Paramount Skydance が勝ち取った。だが争いは終わっていない。Paramount の法務トップは「Netflix が規制当局を毒する焦土作戦を展開している」と司法省に書簡で訴え、Netflix は「ばかげている」と一蹴した。買収戦の第 2 ラウンドは、審査当局を巡る物語の奪い合いに移っている。
- Paramount Skydance の最高法務責任者 マカン・デルラヒム が 6 月 5 日、米司法省への書簡で Netflix の「規制当局を毒する焦土作戦」を告発した
- 発端は労組チームスターズによる買収阻止の意見書。書簡は Netflix が『Disney の Fox 買収が制作現場を傷つけた』という筋書きを労組に吹き込んだと主張し、Netflix は「ばかげている」と全面否定した
- 1 月には Paramount 自身が Netflix 案を「明白に反競争的」と議会で攻撃しており、攻守は逆転。審査は EU が 7 月 7 日、英 CMA が 8 月 7 日を期限に進行中だ
概要
WBD の身売りは決着したはずだった。だが買収を勝ち取った Paramount Skydance と、入札から撤退した Netflix の争いは、規制当局を舞台に続いている。Paramount の最高法務責任者(CLO)マカン・デルラヒム は 6 月 5 日付で米司法省(DOJ)反トラスト局に書簡を送り、Netflix が「パニック的な反応と、規制当局を毒する焦土作戦」を展開していると非難した。米業界誌 Deadline と Variety が 6 月 9 日に報じた。
書簡は DOJ 反トラスト局の弁護士 2 人に宛てられた。Netflix が労働組合を通じて買収反対の圧力を組織的に作り出している、というのが Paramount の主張である。Netflix は声明で、数カ月前にこの取引から離れて自社の事業に集中していると述べ、ばかげた主張だと全面的に否定した。
経緯:入札の決着から「場外戦」へ
前提となる入札戦は 2 月に決着している。経過を整理するとこうなる。
- 2025 年末: Netflix が WBD のスタジオ・配信事業の買収で先に合意
- 2026 年 2 月: Paramount が WBD 全社を対象とする総額約 1,110 億ドルの対案で上回り、Netflix が入札から撤退。違約金 28 億ドルを受領した
- 4 月 23 日: WBD 株主が Paramount 案を承認。クロージングは 2026 年第 3 四半期の見込み
今回の火種は労働組合の動きだ。北米最大級の労組チームスターズ(輸送業を母体とし、映像制作の現場部門も組織する)は 3 月、十分な労働保護が約束されない限り買収を承認すべきでないとする意見書(ホワイトペーパー)を DOJ に提出した。デルラヒム書簡はこれへの反論として書かれている。そのなかで Paramount は、2019 年の Disney による Fox 買収が制作現場を傷つけたという筋書きを Netflix がチームスターズに吹き込んだと名指しし、その語りは実際に起きたことから大きく乖離していると切り捨てた。統合後の新会社はむしろ制作量を増やし、組合員の雇用に利益をもたらすというのが Paramount の立場だ。
ただし、攻守が逆の場面もあった。Netflix 案が優勢だった 1 月、Paramount は連邦議会下院の司法委員会に CLO 名義の声明を提出し、Netflix による WBD 買収を「明白に反競争的で、際どい判断ですらない」と攻撃している。無料の YouTube や TikTok を競合に数える Netflix の市場画定を「サイケデリックな反トラスト論」と呼んだこの声明は、SEC への届出資料として今も公開されている。規制当局への物語の売り込みは、どちらの陣営も先に仕掛けてきた戦術なのである。
構造解釈:審査プロセスが「第 2 の入札」になった
今回の応酬が示すのは、大型メディア M&A の勝敗が入札では確定しなくなった現実である。価格で勝っても、審査当局が詳細審査や訴訟に踏み込めばクロージングは年単位で遅れ、条件次第で取引自体が壊れる。入札で敗れた側にとって、審査プロセスは事実上の「第 2 の入札」として機能する。書簡の主張が事実なら Netflix はそこに賭けたことになるし、事実でなくても Paramount は先回りして相手の信用を削りにいったことになる。
Paramount の布陣自体が、この構図を見越したものだ。デルラヒムは 2017 年から 2021 年まで DOJ 反トラスト局のトップを務め、AT&T による Time Warner 買収の阻止訴訟を自ら主導した人物である。ワーナーを巡る前回の大型統合を止めようとした本人が、今度はワーナーを買う側の法務・政府渉外を率いる。審査の力学を内側から知る人材を法務トップに据えた時点で、Paramount は「この買収は規制の場で決まる」と踏んでいたと言ってよい。
審査クロックも場外戦の重みを裏づける。欧州委員会の判断期限は 7 月 7 日。英国の競争・市場庁(CMA)は 6 月 9 日付の告知で第 1 段階審査に入り、8 月 7 日までに詳細審査(Phase 2)へ移すかを判断する。米国では DOJ の審査に加え、カリフォルニアやニューヨークなど州の司法長官が提訴を準備していると報じられている。ロビーの主戦場は 1 つではない。
示唆:当局が「誰の物語」を採用するか
規制当局が判断材料にするのは市場データだけではない。労組・競合・州政府が持ち込む「物語」が審査の論点を形作る。Disney による Fox 買収という前例が「制作現場を傷つけた集約」として記憶されるか、「規模が制作投資を支えた統合」として記憶されるかで、本件の評価軸そのものが変わる。チームスターズの意見書とデルラヒム書簡は、その記憶の書き換え合戦にほかならない。
- 審査クロックの行方。EU(7 月 7 日)と英 CMA(8 月 7 日)が無条件承認と詳細審査のどちらに進むか
- 米国の州司法長官が実際に提訴へ踏み切るかどうか
- チームスターズが求める労働保護がクロージングの条件(行動的救済)に組み込まれるか。条件化が実現すれば、労組はメディア M&A における事実上の拒否権プレーヤーになる
— Sources / 情報源
- Deadline: Paramount Accuses Netflix Of "Scorched Earth Campaign" To Derail WBD Deal, Streamer Calls That "Absurd"
- Variety: Paramount Says Netflix Is Waging 'Scorched Earth Campaign' to 'Poison Regulators' on Warner Bros. Deal
- SEC (DFAN14A): Paramount Skydance — Statement of Makan Delrahim before the House Judiciary Committee(2026 年 1 月の Netflix 案攻撃声明)
- GOV.UK (CMA): Paramount / Warner Bros. Discovery merger inquiry(第 1 段階審査・期限 2026 年 8 月 7 日)
- The Hollywood Reporter: Paramount-WBD $111B Megadeal Faces Formal U.K. Review
- Deadline: Paramount Hires Former Trump DOJ Antitrust Head As Chief Legal Officer(2025 年 9 月)
- Warner Bros. Discovery (PR Newswire): Stockholders Approve Transaction with Paramount Skydance(公式・2026 年 4 月 23 日)