経営・戦略 · Strategy & Corporate

赤字の iQIYI、香港上場と自社株買いで時間を稼ぐ — 海外会員 +40% 超を成長の支柱に

中国 SVOD の iQIYI が、国内長編の縮小を海外会員と資本市場で埋めにかかる。香港メインボードへの上場を申請し、初の自社株買いに踏み切った。一方で海外会員収益はブラジル・メキシコで 2 倍超に伸び、赤字四半期の数少ない成長点となった。

TL;DR — 3 行で読む
  • 愛奇芸 は Q1 2026 で総収益 RMB6.23B(-13%)・純損失 RMB294.6M と赤字に転落、親会社 百度 傘下の長編 SVOD で本業の成熟が表面化
  • 同社は香港メインボードへの上場を秘密申請し、上限 1 億ドルの初の自社株買いを開始、6.50% 転換社債も大半を買い戻して資本面の備えを固めた
  • 海外会員収益は前年比 +40% 超で日次平均会員数は過去最高、ブラジル・メキシコは +100% 超・インドネシア +80% と伸び(China Daily 報)、iQIYI は国内縮小を海外と資本市場で埋めにかかる

概要

赤字に沈んだ四半期を、iQIYI は資本市場で乗り切ろうとしている。中国の大手 SVOD(定額制動画配信)である愛奇芸は 5 月 18 日、2026 年第 1 四半期決算を発表した。総収益は前年同期比 13% 減の RMB6.23B(約 9.025 億ドル)。前年の営業益から営業損失 RMB228.4M へ転落し、純損失は RMB294.6M となった。前年同期は RMB182.1M の純利益だったから、利益の振れは大きい。

縮む本業の裏で、同社は二つの手を打っている。一つは香港証券取引所(HKEX)メインボードへの上場申請。もう一つは上限 1 億ドルの自社株買いで、上場来初めての試みだ。さらに中国メディア(China Daily)の報道によれば、海外会員収益は前年比 40% 超で伸び、日次平均会員数は過去最高を更新した。ブラジルとメキシコでは、それぞれ会員収益が前年比 2 倍超に伸びたという。赤字の四半期にあって、海外と資本政策が数少ない明るい材料となっている。

経緯

iQIYI の上場は元々、米ナスダックである。親会社は中国の検索大手百度で、iQIYI はその傘下で長編ドラマ・映画を軸に会員課金と広告で稼いできた。だが国内の長編需要が成熟し、コンテンツの当たり外れが会員と広告の双方を大きく振れさせるようになった。今期の減収・赤字も、前年に比べてラインアップが薄かったことが響いている。

そこで同社は 2026 年 3 月 30 日、三つの施策をまとめて公表した。

  • 香港メインボードへの上場を秘密裏に申請(クラス A 普通株が対象)
  • 上限 1 億ドル・期間 18 か月の自社株買いを取締役会が承認
  • 長編動画生成に特化した自社の AI(人工知能)エージェント「Nadou Pro」の商用テストを開始

上場の狙いについて会社は、香港の資本市場へのアクセスを深め、アジア中心の投資家層を広げ、国際的な存在感を高めることだと説明した。

資本の備えも進めた。同社は 3 月、6.50% の転換社債(2028 年満期)の買い戻しを完了し、元本ベースで約 2.078 億ドル相当(US$207.8M)を消した。残る未償還は元本 25.9 万ドルとごくわずかだという。自社株買いは決算発表時点で約 650 万 ADS(米国預託証券、米市場で中国企業の株を売買するための器)を計 800 万ドルで取得した段階にある。

構造解釈:資本市場で時間を買い、海外で成長を埋める

iQIYI の今四半期が示すのは、国内長編の縮小を「海外会員」と「資本市場」の二つで埋めにいく構図である。本業の成長が止まったとき、企業が取れる道は限られる。コストを削るか、新しい収益源を立てるか、資本市場で時間を稼ぐかだ。iQIYI は三つすべてに同時に手を付けている。

海外は数字で語れる成長点だ。China Daily によれば、海外会員収益は前年比 40% 超で伸び、日次平均会員数は過去最高を更新したという。国別ではブラジルとメキシコの会員収益がそれぞれ 100% 超、インドネシアが 80% 超と、新興市場の伸びが目立つ。所得の上昇とスマホの普及で配信需要が広がる地域に、中国語コンテンツとローカル制作で食い込む戦略が効いている。国内が成熟しても、海外には伸びしろが残るという賭けだ。

資本市場の側は、香港上場と自社株買いがその柱となる。香港への上場は、米中対立で米国上場の中国企業が抱える上場廃止リスクへの保険であり、アジアの投資家層を取り込む布石でもある。だが「収益が伸びない企業が自社株を買う」ことには論点がある。本来なら成長投資に回すべき現金を、株価の下支えに使うとも読めるからだ。会社は既存の現金で賄うとし、長期見通しへの自信の表れだと位置づける。転換社債の早期買い戻しと合わせて見れば、これは「目先の財務リスクを潰し、株主に時間を買ってもらう」一連の動きである。本業の組み替えが実を結ぶまでの猶予を、資本政策で確保しにいっているのだ。

コスト面では AI が控える。同社は「Nadou Pro」など自社 AI を制作に組み込み、長編の制作費そのものを下げにかかる。海外で売上を伸ばし、AI で原価を削り、資本市場で時間を買う——この三層の組み合わせが、赤字四半期の iQIYI の生存戦略といえる。

示唆:中国 SVOD の「海外+資本」モデルの行方

iQIYI の動きは、国内市場が成熟した中国 SVOD が次に何をするかの一例である。同じ長編ドラマで競う騰訊視頻優酷も、国内では似た成熟圧力に直面している。iQIYI が先行して海外と資本市場に活路を求める姿は、業界全体の方向感を映す。

WATCHLIST — 次に追う 3 つ
  1. 香港上場の実現可否とタイミング。完了時期は規制当局の承認と取締役会の判断に左右され不確実で、秘密申請から実際の上場までが資本戦略の真価を測る最初の関門になる
  2. 海外会員収益が「赤字を埋める規模」まで育つか。高い伸び率は基数が小さいことの裏返しで、絶対額で国内の減収を相殺できるかは別問題
  3. 自社株買いと AI 投資の両立。本業が赤字のまま資本政策と成長投資を同時に走らせる綱渡りがいつまで続けられるか

— この記事はどうでしたか — Tell the desk

記事に登場するエンティティ
関連記事