BlackRock 系の音楽ファンド Influence Media、Anthem の楽曲権利を 6.5 億ドル超で取得 — 年金基金が手放したカタログを拾う
音楽印税を株式や債券の代替とみなす機関マネーが、年金基金の手放すカタログを拾い上げる。BlackRock が主に出資する Influence Media は、Ontario Teachers' Pension Plan 傘下 Anthem の出版・原盤を 6.5 億ドル超で落札した。
- Influence Media が Anthem の音楽出版・原盤を 6.5 億ドル超で落札、Goldman Sachs 主導の入札に約 12 社が参加し 6 億ドル超の提示は 2 社
- Anthem は旧「ole」で Ontario Teachers' Pension Plan 保有、10 年で 3 度目の売却。『Spider-Man』『Men in Black』の出版権や Rush の印税を含む
- BlackRock が主たる出資元の Influence Media が年金の手放す印税を取得、機関マネーが音楽 IP を非相関の資産として組み入れる流れが続く
概要
カナダの音楽権利会社が、年金基金から投資ファンドへ持ち主を変えようとしている。米 Influence Media(インフルエンス・メディア・パートナーズ)は、Anthem(アンセム・エンターテインメント)の音楽出版・原盤資産を 6.5 億ドルをわずかに上回る額で落札した。Billboard が 6 月 23 日に報じた。取引はまだ完了しておらず、売却を取り仕切った Goldman Sachs(ゴールドマン・サックス)のもとに約 12 社が応札したという。
6 億ドルを超える提示は 2 社で、残りの大半は 5 億〜6 億ドルの間に収まった。対象資産の収益はおよそ次の内訳になる。
- 音楽出版が 5 割
- 原盤や映像から生じる受動的印税(自ら活動しなくても入る使用料)が 2 割
- 映画・テレビ由来が 3 割
テレビ・映画の二次権利を扱う Compact Media と Anthem のプラットフォーム事業は、売却対象から外れて売り手に残る。
経緯
Anthem は 2019 年まで「ole(オール)」を名乗っていた独立系で、カナダの年金基金 Ontario Teachers’ Pension Plan(オンタリオ州教職員年金基金)が主たる保有者である。今回の売却はこの 10 年で 3 度目の試みにあたる。2017 年と 2022 年の売り出しはいずれも成立しなかった。
カタログには、ロックバンド Rush の印税や音楽プロデューサー Timbaland(ティンバランド)の権利が含まれる。中核は、2013 年に当時の ole が約 1.25 億ドルで取得した Sony Pictures(ソニー・ピクチャーズ)の音楽出版カタログだ。『Spider-Man』『Men in Black』といった作品の楽曲が入る。Anthem は 2024 年に、制作音楽(番組や CM 向けに作り置きする楽曲)の 3 ブランド計 65 万曲を Slipstream(スリップストリーム)へ手放した。これにより、出版と原盤から権利者が受け取る正味収益(純出版者取り分と原盤取り分)は年 4,500 万〜5,000 万ドル規模に縮んでいる。制作音楽を含んでいた 2022 年時点では 7,000 万ドルだった。
構造解釈:音楽印税の資産クラス化
Anthem に付いた評価は、純出版者取り分のおよそ 13〜15 倍だった。配信の定額収入が下支えする印税は、毎月決まった額が積み上がる読みやすい収益で、株価や金利の波と切り離して持てる。だからこそ音楽 IP は近年、運用会社や投資ファンドが手がける資産として扱われるようになった。
Influence Media 自身がその担い手である。2019 年に ワーナー・ミュージック・グループの支援で始まり、いまは資産運用最大手の BlackRock(ブラックロック)が主たる出資元となった。Blake Shelton(ブレイク・シェルトン)や Future(フューチャー)、DJ Khaled(DJ キャレド)らのカタログに投資してきた。今回の入札に約 12 社が群がり、6 億ドル超を 2 社が提示したという競りの厚みは、安定したカタログへ資金が集まる現状を映している。
示唆:年金が手放し、ファンドが拾う
象徴的なのは、資産の出口と入口の顔ぶれである。手放すのは年金基金、拾うのは資産運用大手が出資するファンドだ。Ontario Teachers’ は 10 年で 3 度目の挑戦でようやく買い手を見つけ、BlackRock マネーがその印税を引き取る。音楽 IP は保有主体を変えながら、金融資産として循環し続けている。
ただし、その評価は配信収入の安定を前提にしている。定額課金の伸びが鈍り、印税の成長が 13〜15 倍という想定を下回れば、高い倍率で買った資産の利回りは細る。さらに今回は、ロックバンド Rush の権利という文化資産を含むため、カナダの文化政策を所管する Canadian Heritage(カナダ文化遺産省)の審査が取引に及ぶ。金融の論理で動く売買に、文化保護という別の論理が交差する局面である。
- 取引のクローズと、Rush の文化資産を巡る Canadian Heritage の審査がどう着地するか
- 純出版者取り分の 13〜15 倍という評価が、今後の安定カタログ取引の基準として参照されるか
- 配信の定額収入の伸びが鈍ったとき、機関マネーが置く利回り前提が維持されるか
— Sources / 情報源
- Billboard: Influence Media Wins Bid to Acquire Anthem Entertainment's Music Assets
- Billboard: Anthem Entertainment on the Market for Third Time in a Decade
- Music Business Worldwide: Slipstream takes over Anthem Entertainment's three production music brands, covering 650,000 tracks
- Music Business Worldwide: Anthem Entertainment(企業プロファイル)