投資会社の HarbourView、Max Martin らヒット工房の楽曲出版権を取得 — 買い手の関心は「曲を書いた側」へ
ハーバービュー が、ヒット工房 Wolf Cousins の楽曲の出版者持分を取得した。Taylor Swift や Ariana Grande のヒットを生んだ作家集団の権利である。運用(管理)は ワーナー・チャペル が握ったまま、経済的な持分だけが投資会社へ移る。
- ハーバービュー が、Max Martin らの作家集団 Wolf Cousins が手がけた楽曲の出版者持分を取得。Taylor Swift「Style」や Ariana Grande「Problem」などのヒットを含む
- 取得額は非開示。Variety は関係者の話として「low nine figures(1 億ドル台前半)」と報じ、ハーバービュー は条件を明かさないとした
- 楽曲の管理(ワーナー・チャペル)はそのまま。投資会社が買うのは権利の経済的持分で、運用は既存の出版社が続ける構図
概要
ヒット曲の「作り手」の権利に、投資マネーが向かった。投資会社の ハーバービュー は 6 月 24 日、作家・プロデューサー集団 Wolf Cousins が手がけた楽曲の出版者持分を取得したと発表した。Wolf Cousins は、スウェーデンの作曲家 マックス・マーティン(Max Martin)とシェルバックが立ち上げたヒット工房だ。
対象には、Taylor Swift の「Style」、Ariana Grande の「Problem」、The Weeknd の「Can’t Feel My Face」など、過去 10 年あまりのポップスを代表する楽曲が並ぶ。取得額は公表されていない。米業界誌 Variety は関係者の話として「low nine figures(1 億ドル台前半)」と報じたが、ハーバービュー は取引条件を開示しないとしている。楽曲の管理事務は、引き続き ワーナー・チャペル(ワーナーの音楽出版部門)が担う。
経緯
Max Martin とシェルバックは、過去 30 年で最も成功した作曲家兼プロデューサーに数えられる。二人が設立した Wolf Cousins には、Ilya Salmanzadeh や Oscar Holter ら作家が集い、共同制作と後進の育成を掲げる「集団」として機能してきた。出版者持分の売却は、その制作活動を止めるものではない。
買い手の ハーバービュー は、2021 年の設立以来 70 を超える音楽カタログを取得してきた投資会社だ。運用を任された資産(規制資産)は約 38.8 億ドルまで積み上げた。創業者で最高経営責任者のシェリース・クラークは、評価益が市場の変動と相関しにくい「エバーグリーン(時を経ても価値が続く)な知的財産」への投資機会を強調する。2025 年には KKR から 5 億ドルのデット(負債による資金調達)を private securitization(保有資産を担保にした証券化)で確保した。音楽に加えて、映画・TV の権利管理へも事業を広げている。
音楽カタログの買収は、ここ数年で大きな資金が流れ込む領域になった。ソニーによる Hipgnosis の取得や、ワーナー と組む インフルエンス・メディア の買収ファンドなど、年金基金や PE(未公開株投資)の資金を背に、権利の買い手が相次いでいる。
構造解釈:ヒットの「上流」へ向かう資本
今回の取引が示すのは、カタログ買いの照準が川上へ移っていることだ。
これまで投資マネーの主な対象は、録音された音源(原盤)や、特定のアーティスト名義のカタログだった。今回買われたのは、その一段上流にあたる、ヒットを書いた作家・プロデューサーの「出版」側の権利である。誰が歌ったかではなく、誰が書いたか。曲そのものを生む工房の経済価値に値が付いた。Max Martin のように複数の世代・ジャンルにまたがってヒットを量産する作家の楽曲は、特定のアーティストの人気に左右されにくく、長く使われ続ける性質を持つ。
もう一つの特徴は、権利の「分け方」にある。ハーバービュー が取得したのは経済的な持分で、楽曲の管理事務は ワーナー・チャペル が続ける。日々の許諾や使用料の回収といった運用には手を入れず、収益を受け取る持分だけを切り出して売買する。作り手にとっては制作環境を保ったまま資産を現金化でき、買い手にとっては運用の手間なく権利収入を得られる。
示唆:音楽 IP の資産クラス化
楽曲の権利は、配信時代に入って利回りの読める金融資産として扱われるようになった。定額制の音楽配信が普及し、過去のヒットも安定して使用料を生み続けるからだ。市場の浮き沈みと相関しにくい性質は、株式や債券とは別の分散先を探す機関投資家にとって魅力になる。
ハーバービュー のような専門の投資会社が、原盤からアーティスト、そして作家の出版へと買いの対象を広げる流れは、音楽 IP が「資産クラス」として成熟しつつあることの表れだ。一方で、その評価は前提に支えられている。過去のヒットがこれからも使われ続け、人間の作家が書いた楽曲に価値が認められ続ける、という前提である。生成 AI による楽曲が増えるなかで、実績ある作家のカタログに付くプレミアムがどう動くかは、この資産クラスの先行きを占う論点になる。
— Sources / 情報源
- BusinessWire: HarbourView Equity Partners Announces Strategic Partnership With Hitmaking Powerhouse Wolf Cousins(公式リリース)
- Variety: Max Martin and Shellback Sell Catalog Including Taylor Swift and Ariana Grande Songs to HarbourView (EXCLUSIVE)
- CelebrityAccess: HarbourView Equity Partners Announces Strategic Partnership With Hitmaking Collective Wolf Cousins
- Music Business Worldwide: HarbourView secures $500m in debt financing from KKR