HYBE、Q1 過去最高売上で営業赤字 — BTS 復帰とスーパーファン投資が示す「1 再生」から「1 ファン」への移行
HYBE の 1〜3 月期売上は前年比 39.5% 増の過去最高となった一方、営業損益は赤字に転落した。BTS 復帰で配信・レコード音楽は急伸したが、会長による従業員向け株式付与の一時費用と人件費膨張が利益を食う。Weverse の月間利用者は 1,337 万人へ。スーパーファン基盤への投資が利益に先行する構図が鮮明になった。
- HYBE の 1〜3 月期売上は前年比 39.5% 増の 6,983 億ウォンで過去最高、BTS の復帰でレコード音楽が約 99% 増
- 営業損益は 1,966 億ウォンの赤字。会長による従業員向け株式付与の一時費用 2,550 億ウォンを除く調整後営業利益は 585 億ウォンの黒字
- スーパーファン基盤 Weverse の月間利用者は前期比 20% 増の 1,337 万人。SM Entertainment や JYP Entertainment と異なり、HYBE はプラットフォーム投資が利益に先行する
概要
過去最高の売上が、赤字と同居した。HYBE が 4 月 29 日に発表した 2026 年 1〜3 月期決算は、売上が前年同期比 39.5% 増の 6,983 億ウォン(約 4 億 7,700 万ドル)と、四半期として過去最高を記録した。だが営業損益は 1,966 億ウォンの赤字に転落した。
牽引役は BTS の復帰である。3 月発売のアルバム『ARIRANG』が米ビルボード 200 で 3 週連続 1 位となり、レコード音楽(CD・配信などの音源収入)は前年比でほぼ 99% 増の 2,715 億ウォンへ伸びた。MAU(月間の利用者数)で測るスーパーファン向け交流プラットフォーム Weverse は前期比 20% 増の 1,337 万人と過去最高を更新している。
赤字の主因は、会長ポン・シヒョク氏による従業員向け株式付与に伴う一時費用 2,550 億ウォンだ。この非経常費用を除いた調整後営業利益は前年比約 170% 増の 585 億ウォンの黒字となる。つまり本業は伸びている。だが会計上は、売上の最高更新と営業赤字が同じ四半期に並んだ。
経緯
HYBE の四半期収益は、所属アーティストのカムバック(活動再開)周期に強く連動する。BTS のメンバーが兵役を終えて 2026 年に本格復帰したことは、同社にとって最大の収益イベントだった。『ARIRANG』はビルボード 200 初登場 1 位を 3 週続け、付随するワールドツアーのグッズ販売も伸びた。アルバム・コンサート・広告などアーティストが直接関与する売上は前年比 24.5% 増の 4,037 億ウォン(売上の約 58%)に達した。一方、MD・ライセンス・ファンクラブなどの間接売上は 2,947 億ウォンと別建てで、こちらは前年比 65.5% 増と伸びた。
一方、利益面では二つの圧力が重なった。一つは前述の株式付与費用という一時要因。もう一つは、それを含む人件費全体の膨張である。Digital Music News の決算報道によれば、当四半期の人件費は前年比 277% 増の 3,768 億ウォンに達した。その大半は会長の株式付与(約 2,550 億ウォン)で説明されるが、残りは恒常的な人員・組織の拡大によるものだ。
会社側は同日の決算説明会で、Q2 も BTS のワールドツアーに加え、TOMORROW X TOGETHER、LE SSERAFIM、ILLIT、CORTIS といった所属グループのカムバックが続き、成長基調が維持されるとの見通しを示した。短期の赤字は一時費用が主因であり、本業のモメンタムは保たれている。これが経営側の説明である。
構造解釈:「1 再生」から「1 ファン」へ稼ぎ方が移る
今回の決算が映すのは、稼ぎ方の重心が「再生回数」から「ファン一人あたり」へ移りつつある構図だ。配信時代の音楽収益は、ストリーミング 1 再生あたりの単価をいかに積み上げるかという薄利多売の論理に支配されてきた。だが HYBE が賭けているのは、熱量の高い少数の「スーパーファン」から、グッズ・有料会員・ライブ・限定コンテンツを束ねて深く稼ぐモデルである。その器が Weverse だ。
ここに収益と利益のねじれが生まれる。レコード音楽が約 99% 増と跳ねたのは BTS というフロー(新作)の力だが、これは活動周期に左右され振れが大きい。対して Weverse のようなプラットフォームは、ファン基盤というストック(蓄積資産)を育てて収益を平準化する狙いを持つ。だがプラットフォームは人員・開発・運営への先行投資を要し、利益はあとから付いてくる。今期の人件費膨張と営業赤字は、この「投資が利益に先行する」局面の典型である。
同じ K-POP 大手でも、SM Entertainment や JYP Entertainment は自社専用の巨大ファンプラットフォームを HYBE ほど前面に出さず、レーベル運営とアーティスト IP の収益化に軸足を置く。両社は HYBE に比べ営業利益率の安定を優先する傾向が強い。HYBE だけがプラットフォーム投資の重さを損益計算書に先に計上している。ここに戦略の分岐がある。一時費用を除けば調整後営業利益は黒字であり、本業の収益性そのものが崩れたわけではない点は押さえておきたい。
示唆:スーパーファン経済はいつ利益化するか
HYBE の決算は、音楽産業が「配信の薄利」から「ファンの厚利」へ移る過渡期のコストを可視化した。一時費用を除けば本業は黒字で、Weverse の利用者も伸びている。問題は、その投資がいつ持続的な利益として回収されるかだ。スーパーファン経済の優位が数字で立証されるのは、BTS 依存が薄れた四半期の損益においてである。
- Weverse の収益化の質。MAU 1,337 万人という規模が、有料会員・広告・物販を通じてどれだけ「ファン一人あたり収益」に転換されるか
- 人件費の構造。今期膨張の大半は一時的な株式付与だが、恒常的な人員拡大が続けば収益イベントの薄い四半期に赤字が再来しうる。一時要因の剥落後に営業利益率がどこへ着地するか
- ライバルとの収益性比較。SM Entertainment・JYP Entertainment が安定的な利益率を維持する中で、HYBE のプラットフォーム先行投資が中期的に上回るリターンを生むか
— Sources / 情報源
- Music Business Worldwide: HYBE posts record Q1 revenue of $477M, up 39.5% YoY, driven by BTS comeback
- Billboard: BTS' Return Lifts HYBE to Its Highest-Ever Q1 Revenue Tally
- The Asia Business Daily (asiae): 'BTS Comeback Effect' Drives Hybe to Record-High Q1 Revenue of 698.3 Billion Won
- Digital Music News: Hybe Posts Double-Digit Revenue Growth Amid BTS Comeback