規制・法務 · Regulation & Compliance

欧州委、Paramount の WBD 買収を承認へ — ユニバーサルとの映画配給合弁から手を引くのが条件

欧州委員会 は約 1,110 億ドルの Paramount Skydance × WBD 統合を、詳細審査に進めず承認する見込みだ。条件は劇場映画の国際配給合弁からの離脱。配信を論点に無条件で通した米国とは、見ている市場が違う。

TL;DR — 3 行で読む
  • 欧州委員会Paramount Skydance による WBD 買収を、詳細審査(Phase 2)に進めず 7 月 7 日の期限前に承認する見込みと複数の媒体が報道
  • 承認の条件は是正措置。中心は ユニバーサル と組む国際的な劇場映画配給の合弁からの離脱で、子供向け TV 網の一部売却も用意があるとされる
  • 6 月 12 日に無条件で通した米司法省は配信市場を論点にしたが、欧州委の関心は劇場映画の配給集中にある。残る英 CMA は 8 月 7 日を期限に第 1 段階審査中

概要

ハリウッド最大の再編が、欧州の関門も条件付きで抜けようとしている。欧州委員会(EU の競争審査を一元的に担う行政執行機関)が、Paramount Skydance による WBD 買収(総額約 1,110 億ドル)を、時間のかかる詳細審査(Phase 2)に送らず承認する見込みだ。英フィナンシャル・タイムズの報道を引く形で、Variety や Deadline が一斉に伝えた。欧州委は 7 月 7 日までに、承認するか詳細審査を開くかを判断する。

ただし条件が付く。報道される是正措置の中心は、Paramount が ユニバーサル・ピクチャーズ と組む国際的な劇場映画配給の合弁から手を引くことだ。加えて、Bloomberg によれば Paramount は子供向け TV 網の一部資産を手放す用意もあるという。是正措置を正式に提案すれば第 1 段階の期限は 10 営業日延び、判断は 7 月下旬にずれ込む可能性がある。

経緯

連邦・欧州・英国の三つの審査が、時間差で進んできた。

  • 6 月 12 日: 米司法省 が WBD 買収を無条件で承認(前報)
  • 欧州委: 企業結合審査(期限 7 月 7 日)と外国補助金規制の審査(同 7 月 14 日)を並行
  • 6 月 9 日: 英国の競争・市場庁(CMA)が第 1 段階審査を開始、期限は 8 月 7 日
  • 6 月下旬: 欧州委が是正措置と引き換えに承認へ動くと報道

焦点の合弁は UIP(ユナイテッド・インターナショナル・ピクチャーズ)。両社の映画を米国外の複数の市場で配給してきた長年の枠組みで、Paramount が抜ければユニバーサルの側に残る。欧州委の審査は当初から劇場映画の配給に集中していた。規制当局も映画館の運営者も、統合で配給の支配力がさらに集まることを懸念しており、合弁の解消はその不安を和らげる狙いがある。

構造解釈:米は配信、欧は劇場配給を見た

同じ買収でも、大西洋の両側で当局が見ている市場は違う。

米司法省は 6 月 12 日、この統合を定額制動画配信(SVOD)・リニア TV・劇場映画の 3 市場で「害なし」と結論し、資産売却も行動的な条件も課さなかった。論点の軸は配信にあり、Paramount+ と HBO Max の合流を、先行する Netflix・Amazon・Disney を追う第 3 極の強化と読んだ。

欧州委の視線はそこにない。関心は劇場映画の配給という川下に向かう。両社は 2021〜2024 年の欧州の劇場興行収入の約 3 割を生んでおり、欧州の業界団体は配給の集中を懸念して欧州委に申し入れていた。配給の窓口がさらに束ねられれば、映画館の側の交渉力が弱まりかねない。だからこそ救済は配信事業ではなく、配給合弁という一点に絞られた。米国が「配信の競争を増やす統合」と読んだものを、欧州は「劇場配給の集中を生む統合」として測っている。審査のレンズが市場ごとに分かれているという事実は、グローバル企業の再編が単一の論理では通らないことを示す。

示唆:グローバル統合に払う対価

欧州での承認は、長く続いた配給の枠組みを一つ手放すことと引き換えになる。是正措置は買収を止めはしないが、統合後の事業地図を当局が部分的に描き直す。Paramount にとっては、世界規模の統合を完成させるために、欧州での川下の足場を一部譲る取引である。

審査が国・地域ごとに別の論点で動く以上、クロージング(2026 年 Q3 目標)の時間軸を握るのは最も遅い当局だ。米国は配信を見て無条件で通し、欧州は劇場配給を見て条件を付け、英国はなお審査中という三層構造が、本件で具体的な形を取りつつある。連邦の承認が出ても、域外の審査が日程を決めるという大型メディア M&A の新しい標準形が、ここでも確かめられている。

WATCHLIST — 次に追う 3 つ
  1. 欧州委が 7 月 7 日(是正措置を正式に受理すれば期限は 10 営業日延びて 7 月下旬)までに承認を出し、詳細審査入りを回避できるか
  2. 国際配給合弁が解消された場合、Paramount 作品の欧州各国での劇場配給を誰が担うか。ユニバーサル の国際配給支配がどこまで強まるか
  3. 英 CMA(第 1 段階の期限 8 月 7 日)が欧州委と同じ劇場配給の論点で独自の救済を求め、2026 年 Q3 のクロージング目標を動かすか

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