中国・微短劇のコスト 8 割超は「集客の買い付け」 — 制作 7.5%・脚本 1.5% が示す稼げない構造
稼げないのは制作費が安いからではない。費用の 8 割超が 微短劇 の集客広告に消え、脚本には 1.5% しか回らない。コンテンツでなく集客が原価の中心という構造を、2026 年の iQIYI らによる分账改革と合わせて読む。
- 微短劇 の費用は集客の広告買い付け(投流)と運営で 82.5%、制作は 7.5%・脚本は 1.5% にとどまる
- 原価の中心がコンテンツでなく集客のため、市場が数百億元に育っても作り手に金が回らない構造になっている
- 2026 年に iQIYI・Youku・Tencent Video が分账(収益分配)改革で作り手への配分を引き上げ始めた
概要
縦型ショートドラマで稼ぐ主役は、脚本でも俳優でもない。費用のほとんどは視聴者を呼び込む広告の買い付けに消える。新浪財経が 5 月 8 日に伝えたコスト分析によれば、微短劇(1 話 1〜2 分の縦型ショートドラマ)の費用は、投流(とうりゅう、視聴者を呼び込むための広告出稿)と運営が 82.5% を占める。
残りは制作費が 7.5%、俳優の出演料が 5%、脚本が 1.5% にすぎない。同分析は「微短劇の原価の中心は内容制作ではなく、プラットフォームへの出稿と運営に関わる費用だ」と総括する。つまり原価表の主役は、作品そのものではなく集客のための支出である。
この構造は、市場が大きく育っても作り手の取り分が増えない理由を説明する。People’s Daily が伝えたウーズン(烏鎮)での業界報告では、中国の微短劇市場の収入は 2025 年に 500 億元(約 72.3 億ドル)を超え、利用者は 6.62 億人に達した。市場規模は大きいが、その大半は集客の原資へ流れ込む。
経緯
なぜ集客費がこれほど膨らむのか。微短劇は SNS の動画フィードに広告を出し、続きが気になる視聴者に課金で先の話を解放させる「投流课金」型を主流としてきた。1 本のヒットを当てるために大量の広告を買い、課金で回収する博打型の運営である。だから原価の主役が広告買い付けになる。
この稼ぎ方は、作品より「いかに人を集めるか」に資本を寄せる。新浪財経の分析は収益源を二つに整理する。一つは広告収入で、本編前後やフィードに差し込む広告。もう一つはユーザー課金で、定額や 1 話ごとの解放料金だ。加えて IP の派生収益として、ライブコマースによる物販も挙がる。
業界の急拡大は、稼げない作り手という歪みも露わにした。Caixin によれば、2026 年 2 月までに ByteDance や Tencent を含む 36 社が労働環境改善の自律公約に署名した。微短劇は利用者 6.96 億人、1 日あたりの視聴時間 120.5 分を抱え、133 万人の雇用を支える。だが低賃金や過酷な撮影現場が批判を浴びてきた。原価の 1.5% しか脚本に回らない構造は、こうした批判の経済的な裏づけでもある。
構造解釈:原価の主役が「作品」でなく「集客」になる罠
微短劇の収益構造は、内容ではなく流通の入口を握る側に価値が集まる仕組みだ。視聴者を呼び込む広告枠を持つプラットフォームこそが、最大の費目であり最大の受益者になる。作り手はその費用の支払い手であって、配分の受け手ではない。
ここが長尺ドラマや映画との決定的な違いである。従来の映像では、制作費こそが投資の中心だった。だが微短劇では、同じ投資の論理が「集客の買い付け」へ置き換わる。82.5% という比率は、価値の源泉が作品の質から流通の支配へ移ったことを数字で示す。
だからこそ作り手は、市場が数百億元に膨らんでも豊かにならない。広告買い付けの単価が上がるほど、制作や脚本に回る原資は相対的にやせ細る。集客費が原価の天井を決め、内容はその残余を分け合う。これが「数百億元の産業が作り手を富ませない」構造の核心である。
ただし、この罠は永続するとは限らない。集客費の高騰は利益率を圧迫し、博打型の運営そのものを持続困難にする。プラットフォームが作り手を引き留める必要に迫られれば、配分の論理は書き換わりうる。
示唆:分账改革が原価の偏りを正せるか
2026 年に動き始めたのが、長尺配信側からの分账(ふんちょう、収益分配)改革である。新浪財経によれば、iQIYI は独占初放映の作品で収益分配率を最大 130% まで引き上げ、段階配分と最低保証を組み合わせる。Youku は非独占の広告分配で最大 100% に達する設計を示し、Tencent Video は純粋な分配型と保底(最低保証)+分配型を用意し、支払い期間の延長やスタジオ支援を加えた。
これらは投流课金の博打から、配分による作り手の囲い込みへと軸足を移す試みと読める。集客の買い付けに依存しない収益源を作り手に与えれば、原価の偏りを緩める余地が生まれる。長尺配信勢にとっては、自前の制作費を抑えつつ良質な作り手を呼び込む安価な調達策でもある。
- 分账改革が実際に脚本・制作への配分を押し上げるか、それとも上位ヒット作だけに恩恵が偏るか
- AI 制作の浸透が制作費 7.5% をさらに圧縮し、集客費の比率をいっそう高めるか
- 36 社の自律公約が低賃金と過酷な現場を是正し、コスト構造の歪みを労働面から正せるか
— Sources / 情報源
- 新浪財経: 微短劇のコスト構造分析 — 投流・運営が 82.5%、制作 7.5%、俳優 5%、脚本 1.5%
- 36Kr: Micro-drama Industry Enters Transformation Deep Dive(2025 年市場規模 634.3 億元)
- People's Daily Online: Chinese micro-dramas gain global momentum(ウーズン報告・収入 500 億元超/6.62 億人)
- Caixin Global: ByteDance, Tencent Join Industry Pledge to Curb Labor Abuses(36 社の自律公約・1.33 百万人の雇用)