4 大ストリーマー、アジア IP を「世界商品」に格上げ — APOS 2026 が映す現地戦略の転換
Netflix・Prime Video・Disney・WBD の APAC 幹部が、アジア作品を地域向けでなくグローバル展開の資産と位置づけた。背景には、世界最大の視聴規模を持ちながら 1 人あたり収益が米国の 20 分の 1 という「収益化の谷」がある。
- バリの業界会議 APOS 2026 で、Netflix・Prime Video・Disney・WBD の APAC 幹部がアジア IP を「グローバル展開の資産」と一致して位置づけ
- MPA はアジア太平洋の映像経済が 2026 年 1,790 億ドル→2031 年 2,000 億ドルと予測。ただし 1 人あたり収益は年 46 ドルで米国(約 890 ドル)に遠く及ばない
- 巨大な視聴規模を収益に変える鍵として、アジア IP の世界輸出と、コマース連動の小売メディアが浮上
概要
アジアの作品は、もう「アジアの視聴者をつなぎ留めるためのもの」ではない。それは 6 月 16〜18 日にバリで開かれた配信業界の年次会議 APOS 2026 ではっきりした。Netflix・Prime Video・Disney・WBD(ワーナー・ブラザース・ディスカバリー) のアジア太平洋責任者がそろって、アジア発の知的財産(IP)をグローバル展開の中核資産と位置づけた。
口火を切ったのは Netflix の APAC 統括 Minyoung Kim(ミニョン・キム)だ。「私と私のチームはポートフォリオ・マネージャーだと考えている」と述べ、韓国・日本・インドへの投資を土台に、日本のライブアクション作品やタイのコンテンツが今後グローバルに広がるとの見立てを示した。地域ごとの編成でなく、世界市場に向けた資産配分としてアジアを扱うという宣言である。
経緯
背景には、アジア太平洋市場の特異な構造がある。調査会社 MPA(メディア・パートナーズ・アジア) の Vivek Couto(ヴィヴェク・コウト)は、同地域の映像経済が 2026 年に 1,790 億ドル、2031 年には 2,000 億ドルへ拡大すると予測した。視聴端末も 2031 年までに 52 億台に達するという。視聴の規模は世界最大級だ。
だが収益は規模に追いつかない。APAC の 1 人あたり年間収益は約 46 ドルで、米国の約 890 ドルのおよそ 20 分の 1 にとどまる。Couto はこの差を、世界のメディアで最大の未開拓な価値の源泉だと位置づけた。そのうえで業界の課題は、いかにリーチを増やすかから、そのリーチをいかに収益へ変えるかへ移ったと総括した。
広告も振るわない。2026 年の広告費の伸びはコロナ禍以降で最も鈍く、テレビ広告は 8 年連続で減る見通しだという。
各社の語り口は、この「収益化の谷」への別々の答えでもある。Prime Video の Gaurav Gandhi(ガウラフ・ガンディ)は、単一のサブスクではなく、オリジナル・提携チャンネル・レンタル・追加課金を束ねた「エンタメ・ハブ」を掲げた。日本ではライブスポーツへ広げるという。Disney の Tony Zameczkowski(トニー・ザメツコウスキ)は、質の高いタレント主導の物語づくりを最大の成長エンジンに据え、Hulu Japan や ESPN との提携を挙げた。WBD の James Gibbons(ジェームズ・ギボンズ)は「ハリー・ポッター」を例に、熱量の高いファンダム(熱心なファン層)が日本・中国で持つ商業的な力を強調した。
構造解釈:アジア作品を“世界で売る商品”に変える
ばらばらに見える 4 社の発言は、一つの転換を指している。アジアのコンテンツを、現地会員のための「ローカル在庫」から、世界中で売れる「輸出財」へと格上げする動きだ。これは収益化の谷への、最も直接的な処方箋でもある。アジアの視聴者から米国並みの単価は取れない。ならばアジアで安く作った IP を、単価の高い世界市場で回収すればよい。韓国ドラマで実証された経路を、日本のライブアクションやタイ作品へ広げるのが、いま各社の狙いだ。
もう一つの答えが、視聴規模そのものを別の蛇口で収益化することだ。MPA が「最速で伸びる収益線」と名指ししたのは、デジタル広告でもサブスクでもなく、購入に直結する「小売メディア(リテールメディア=買い物に紐づく広告)」だった。Prime Video の「ハブ」構想が象徴するように、配信を入り口にコマースや広告へ束ねれば、加入者の頭数に頼らずリーチを現金化できる。コンテンツの世界輸出と、視聴のコマース化——この二本立てが、谷を埋める処方箋として浮かび上がる。
注目すべきは、4 社が同じ方向を向いた点だ。かつてアジアは Netflix が韓国作品で先行し、他社が追う構図だった。いまや Prime Video も Disney も WBD も、アジア IP を世界戦略の中心に据え直している。アジアは「成長余地の残る周辺市場」から「世界最大の未収益プール」へと、各社の地図の中で格上げされた。
示唆:規模を収益に変えられるか
APOS が映したのは、アジア配信が「視聴を集める段階」を終え、「集めた視聴を金に変える段階」に入ったという認識の共有だ。問われるのは実行である。アジア IP の世界輸出が機能するかは、非英語の作品がグローバルの視聴ランキングでどこまで上位に残るかで測られる。韓国ドラマのような突破口を、日本やタイの作品が再現できなければ、輸出財化は掛け声で終わる。
小売メディアによる収益化も、まだ証明されていない。コマースと配信を束ねる構想は描けても、買い物に紐づく広告がサブスクの伸び悩みを実際に補えるかは、これからの数字次第だ。そして同じアジアを、足場を持つ地域勢が連合で守りに来ている。グローバル勢の集中投資が、地域勢との競争を超えてリターンを生むのか。アジアを世界資産と呼ぶのはたやすいが、その価値を実際に取り出せるかは、これからの数年で答えが出る。
- 日本のライブアクションやタイ作品など非英語アジア IP が、グローバルの視聴ランキングでどこまで上位に食い込むか
- MPA が「最速成長の収益線」とした小売メディア(コマース連動広告)が、加入者頼みの収益化をどこまで補えるか
- グローバル勢のアジア集中投資が、地域勢の連合(Viu×iQIYI 等)との競争で実際のリターンを生むか
— Sources / 情報源
- Variety: Netflix, Prime Video, Disney, WBD APAC Chiefs on Asian IP as Global Asset (APOS)
- The Hollywood Reporter: APOS — Prime Video Bets Its Future in Asia-Pacific on Building the 'Entertainment Hub'
- Variety: Asia-Pacific Screen Economy Races Toward $200 Billion as Monetization Gap Defines the Decade
- Deadline: APAC Screen Economy Set To Be Worth $200BN By 2031, Monetization Moving Toward Retail (APOS)