Suno、著作権訴訟の対象を 560→6 万件へ拡大されることに反対申立 — 賠償は最大 91 億ドルに膨張
生成 AI 音楽 Suno が、訴訟を『フェアユースか否か』で早く決着させようとしている。UMG・Sony Music は対象を 560 件から 61,026 件へ広げ賠償圧力を積み上げる構えで、Suno はそれを認めないよう連邦地裁に申し立てた。学習データの責任が値付けされる代理戦争だ。
- 生成 AI 音楽 Suno が、UMG・Sony Music による著作権訴訟の対象拡大(560→61,026 件)を認めないようマサチューセッツ連邦地裁に申し立てた
- ディスカバリで Suno が「数百万件」のレーベル音源で学習と判明、法定賠償は最大 91 億ドル超に膨らみ得る
- Suno はフェアユース抗弁の早期判断を求め、和解・ライセンス化した Warner Music Group とは対照的に司法決着を選ぶ
概要
生成 AI 音楽の Suno が、自社を訴える著作権訴訟の引き延ばしを止めようとしている。6 月 4 日、Suno は米マサチューセッツ連邦地裁に、原告 UMG と Sony Music が訴訟の対象を大幅に広げる申し立てを認めないよう求める書面を出した。2024 年 6 月の当初の訴状は 560 件の楽曲を挙げていたが、両社は 5 月 21 日、これを 61,026 件へ拡大する許可を裁判所に申請していた。
拡大の根拠は、証拠開示(ディスカバリ=訴訟の事前に当事者が資料を出し合う手続き)で得られた。Suno が「数百万件」に及ぶレーベルの音源で AI を学習させていたと判明し、両社は「特定できた作品のごく一部」を主張するにとどめると説明する。法定賠償は 1 作品あたり最大 15 万ドルだ。対象が 560 件なら賠償の上限は最大 8,400 万ドルにとどまるが、61,026 件まで広がれば 91 億ドル超に膨らむ計算になる(Complete Music Update)。
経緯
訴訟は 2024 年 6 月、UMG・Sony・Warner Music Group の 3 社が Suno を提訴して始まった。このうち Warner は 2025 年 11 月に和解し、ライセンス提携を結んで 2026 年 1 月に訴訟を離脱している。残る UMG と Sony が、係争を続ける構図だ。
両社は学習データ内の自社音源を、業界標準の音声指紋技術 Audible Magic(音源を照合して特定する仕組み)で割り出した。Suno 側代理人の事務所の隔離された部屋に二度入り、計 2 週間かけて指紋データを作成したという。解析自体は 2026 年 1 月に完了している。両社は申し立てで、拡大を認めなければ前例のない規模で複製しその事実を隠してきた Suno をかえって利することになる、と訴えた。
これに対し Suno は反対の書面で、レーベルの手法を批判した。代表的な作品で提訴し、数年かけて係争を進めたうえで対象を一気に膨らませる、おなじみの型だというのである。2 年に及ぶ徹底した証拠開示を経た以上、フェアユース抗弁について速やかな判断を受ける権利がある、とも主張した。AI の学習を「変容的利用」と認めた Bartz 対 Anthropic、Kadrey 対 Meta の判例も援用している。
構造解釈:「時間」と「規模」をめぐる訴訟の綱引き
この攻防の核心は、賠償額そのものよりも「時間と規模の綱引き」にある。Suno が欲しいのは時間だ。訴訟を「学習はフェアユース(公正な利用)か否か」の一点に絞り、早期に決着させたい。対象が 6 万件に膨らめば新たな証拠開示が必要になり、その本丸の判断が遠のく。
レーベル側の狙いは逆で、規模である。賠償の天井を 91 億ドルへ引き上げることで、和解に応じる以外の選択肢を被告から奪っていく。すでに和解してライセンス側へ回った Warner と、司法判断での決着を選ぶ UMG・Sony とで、対応が割れている点も象徴的だ。同じ権利者でも、AI 企業を「取引相手」と見るか「侵害者」と見るかで戦略が分岐している。
背景にあるのは、生成 AI の学習が著作権法上どう扱われるかという、より大きな代理戦争だ。Suno が引く Anthropic や Meta の判例は、AI の学習を変容的利用として被告に有利に働いた。音楽でも同じ結論になるのか、それとも音源の大量複製という事実が判断を分けるのか。その帰趨が、テキストや画像の生成 AI にも波及する。
示唆:生成 AI の学習データ責任が値付けされる
この訴訟は、生成 AI が「何で学習したか」の責任が、いくらで値付けされるのかを決める試金石になる。
- 裁判所が対象拡大を認めるか。事実関係の証拠開示は 6 月 26 日が期限で 8 月まで延びる可能性もあり、ここでフェアユース判断の時期が事実上決まる
- 91 億ドルという賠償の天井が、和解額やライセンス料の相場をどう動かすか。Warner 型の「和解してライセンス提携」が業界標準になるのか、司法判断を待つ構えが増えるのか
- 競合 Udio の並行訴訟との整合。Sony は Udio 事件でも 30,442 件の追加を求めており、二つの裁判所で判断が揃うのか割れるのかが先例の重みを左右する
— Sources / 情報源
- Music Business Worldwide: Suno asks court to block UMG and Sony from expanding copyright lawsuit to over 61,000 recordings
- Music Business Worldwide: UMG and Sony seek to add over 61k recordings after discovery reveals AI trained on 'millions' of their tracks
- Complete Music Update: Damages in major label lawsuit against Suno could top $9 billion after Sony and Universal add another 61,026 tracks
- TechCrunch: Still facing copyright lawsuits, AI music generator Suno raises another $400M