北欧の新作ドラマ、2025 年に約 30% 減 — 低 ARPU 配信が制作量を絞る一方で支配力は拡大
Mediavision の最新調査で、北欧の新作フィクションは前年比約 3 割減った。だが Netflix ら世界的配信の市場シェアはむしろ上がる。作品数の縮小と配信の支配力拡大が同時に進む。
- Mediavision 調べで北欧の新作フィクションは 2025 年に 57 本、前年 79 本から約 30% 減
- 商業放送 −40%・Netflix ら世界的配信 −30%・公共放送 −10% と全方位で縮小、要因は制作費高騰と低 ARPU 配信への転換
- 一方でグローバル配信の市場シェアは 25% 未満(2023)→37%(2025)へ — 作品数は縮むのに Viaplay ら地場勢を含めた供給構造での配信の支配力は増す逆説
概要
北欧の連続ドラマが、目に見えて減っている。北欧メディア市場の調査会社 Mediavision(メディアビジョン、スウェーデン拠点)が最新の「Content Analysis」で示したところによると、2025 年に北欧地域で初公開された新作フィクション(連続ドラマと映画)は 57 本で、2024 年の 79 本から約 30% 減った。
落ち込みは作り手の種類によって差がある。最も深く削ったのは地場の商業放送局で、産出を約 40% 減らした。Netflix に代表される世界的な配信サービスも約 30% 減らし、受信料などで支えられる公共放送は約 10% 減と比較的踏みとどまった。Mediavision でコンテンツ分析を率いる Joakim Klingspor(ヨアキム・クリングスポー)は、北欧の制作市場は構造的な転換のさなかにあり、放送局も配信も何を発注するかではるかに選別的になっている、その結果として制作本数が減っていると述べた。
経緯
この縮小は突然ではない。同じ Mediavision が 2026 年 1 月に出した分析では、世界的な配信各社が 2025 年に北欧の新作タイトルを前年比およそ 20% 減らし、それが「近年続く下落基調の継続」だと指摘していた。今回の通年集計は、その流れがさらに加速して全体で約 3 割減に達したことを確かめた格好だ。
1 月の分析が示したもう一つの論点は、配信の「規模」と「効き」の乖離である。Mediavision の主席アナリスト Fredrik Liljeqvist(フレドリク・リリエクヴィスト)は、地場の配信サービスが「供給時間あたりの世帯浸透」で世界的大手を上回ると指摘していた。成功を左右するのは最大のカタログを持つことではなく、地元の視聴者に響く関連性のほうだとも語っていた。Viaplay のような北欧発のサービスが強いのは、ローカル制作の比率が高く視聴者に刺さるからだ、という見立てである。つまり北欧では、潤沢な制作費を投じる世界的配信が量で押し切る図式は、すでに崩れつつあった。
構造解釈:配信が「量産のパトロン」から「選別する支配者」へ
今回の数字が映すのは、配信サービスが北欧の制作を支える役回りを変えつつある構図だ。かつてグローバル配信は、ローカル制作に潤沢な資金を注ぐ「量産のパトロン」として歓迎された。だが低 ARPU(ARPU=契約者一人あたりの平均収入)モデルへ各社が舵を切ると、一本あたりの投資判断はシビアになり、発注は数を絞って当たりそうな企画に集中する。制作費の高騰がこれに拍車をかける。結果は、作品総量の縮小である。
ところが同じ調査は、もう一つの逆説を映し出す。制作本数は減っているのに、新作フィクションに占めるグローバル配信のシェアは 2023 年の 25% 未満から 2025 年には 37% へ上がった。市場が縮むなかで、世界的配信の比重だけが増しているのだ。地場の商業放送が体力を失って最も大きく後退する一方、グローバル勢は本数を絞りながらも相対的な存在感を高める——「縮小」と「支配力拡大」が同時に起きている。
言い換えれば、北欧の制作エコシステムは、世界的配信に対する依存をむしろ深めながら痩せていく。発注の総量が減るほど、誰の発注が市場を左右するかという力の偏りは強まる。配信は「量産のパトロン」から、何を作らせるかを選り分ける「選別する支配者」へと立ち位置を移している。
示唆:縮むパイで誰が制作を支えるか
北欧は『The Killing』『Borgen』など「ノルディック・ノワール」を世界に輸出してきた制作大国であり、その供給が 1 年で 3 割縮むことは、ローカル制作の持続可能性に直結する問いを突きつける。グローバル配信が選別を強め、商業放送が退く局面で、地域の作り手と多様性を誰が支えるのか。相対的に底堅い公共放送と、ローカル色で浸透を稼ぐ地場配信の役割が、改めて前面に出てくる。
- グローバル配信のシェア 37% がさらに上がるか頭打ちになるか——配信依存の深さの分水嶺になる
- 公共放送と地場配信(Viaplay 等)が縮小局面で制作の下支え役を担えるか、その財源と編成の動き
- 同じ低 ARPU 圧力にさらされる他の欧州中堅市場(オランダ・ベルギー等)へこの「選別と縮小」が波及するか。EU の欧州作品クオータ規制が縮むパイのなかでどこまで実効を保つか