中国の縦型短編ドラマ、AI 製が四半期供給の 95% 超に — だが「観られる」のは 1/50 の実写
微短劇の供給は AI が席巻したが、視聴は実写に集中した。2026 年第 1 四半期の新作約 12.8 万本のうち AI 製が 95% 超。一方、春節期の総再生は実写が AI の 25 倍に達し、量と視聴の乖離が業界の課題に浮上した。
概要
中国の縦型短編ドラマで、量と視聴が逆向きに振れた。2026 年 4 月 30 日、業界団体の 中国網絡視聴協会(中国网络视听协会、配信動画事業者の業界協会)が初の四半期版「微短劇創作指引」(縦型短編ドラマの制作ガイドライン)を上海で公表し、第 1 四半期の供給構造を数字で示した。
それによれば、同四半期に全業界で配信開始された微短劇は約 12.8 万本。このうち AI が生成した作品が約 12.2 万本で、全体の 95% を超えた。前年通年の約 4 倍に当たる供給量を、AI 製がほぼ独占した格好である。
ところが視聴は逆だった。指引は、2026 年春節期(旧正月)の配信本数で実写作品が AI 作品の約 1/50 にとどまる一方、総再生量は実写が AI の 25 倍に達したと指摘する。本数で圧倒的に少ない実写が、視聴では大差で勝った。協会は、実写の「活人感」(生身の人間らしさ)こそが観客を動かす鍵だと総括した。
経緯
転機は 2026 年 2 月の春節前後にあった。ByteDance(バイトダンス、Douyin の運営元)が動画生成 AI「Seedance 2.0」を投入し、微短劇の制作経済を一変させた。Caixin の取材によれば、実写なら 1 本あたり 30 万〜40 万元、約 40 人の制作班と数日の撮影を要したところ、AI 製は 1 本 2 万元未満、最安で 3,000 元程度まで落ちた。脚本の発注単価も 1 分あたり 800〜1,000 元から 200 元へ下がった。
コスト差は供給を一気にAIへ振った。Caixin によれば、4 月だけで新作の微短劇が約 5 万本配信された(実写制作が月 7〜8 割落ち込む一方での急増である)。1 本あたりのコストが実写の 15 分の 1 から 20 分の 1 で済むため、スタジオには量産の合理性があった。だが大量生産は「無效产能」(無効な生産能力、売れない過剰供給)を生んだ。
36 氪の整理では、AI 作品の完走率(最後まで視聴された割合)は 15% 未満にとどまり、実写の 40% 超に遠く及ばない。ヒット化したのは AI 作品のわずか 0.16% で、制作会社の約 9 割が赤字だった。量だけが増え、視聴とマネタイズが追随しない構図が固まった。
構造解釈:量は AI、視聴は実写という需給のねじれ
ここで起きているのは、供給と需要が別々の主体に分かれる「ねじれ」である。AI は供給(本数)を支配し、実写は需要(視聴)を握る。両者が同じ指標で競っていないため、95% という供給シェアは視聴シェアをまったく意味しない。
このねじれを増幅したのが、微短劇のマネタイズ構造だ。微短劇の収益は主に二系統ある。視聴者の課金を配信側と制作側で分け合う「分账」(収益分配)と、広告枠を買って自作へ視聴者を流し込む「投流」(買いトラフィック、出稿で再生を獲得する手法)である。AI 製は単価が安いため、薄く広く投流で当たりを探す賭けが成立しやすい。結果として、当たらない作品が市場を埋め尽くした。
配信側はこのねじれを是正しにいった。36 氪によれば、Douyinは 2026 年 5 月 11 日、課金型作品の分账比率を制作側 70% から 80% へ引き上げ、広告型の配分も実写へ傾けた。低コスト量産の AI に押された実写の採算を、プラットフォーム側が分配率で底上げする動きである。供給を AI が握っても、視聴と課金を生むのは実写だという読みが、配分設計に表れた。
示唆:AI コンテンツ・バブルは持続するか
今回の数字は、生成 AI による映像量産が「作れる」ことと「観られる」ことの距離を、業界規模で初めて可視化した事例といえる。供給の 95% を AI が占めても、視聴と収益が実写に偏るなら、AI 量産は投流コストを回収できない過剰供給に終わりかねない。協会が初の四半期指引で「活人感」を前面に置いたのは、量の競争から質の競争へ舵を切る規範的な合図と読める。
一方で、コスト差は依然として大きい。実写の数分の 1 で作れる以上、AI 製の本数自体がすぐ減る理由は乏しい。当面は「大量の AI が市場を埋め、少数の実写が視聴を取る」二層構造が続く公算が高い。問題は、その二層が分账と投流の経済の中で共存できるか、それとも AI 過剰供給が配信側の採算とユーザー体験を損ない調整局面に入るかである。