規制・法務 · Regulation & Compliance

カナダ音楽業界、初のサイトブロック命令を獲得 — 配信時代の海賊版対策がISP遮断へ

カナダ連邦裁が、音楽業界として国内初のサイトブロック命令を出した。大手レーベルの団体が、音源を抜き出すリッピング業者の遮断を9社のISPに2年間義務づける。ストリーミングが収益の大半を占める時代に、海賊版対策が個別訴訟から接続インフラの遮断へと移る。

TL;DR — 3 行で読む
  • Music Canada がカナダ連邦裁から、音楽業界として国内初のサイトブロック命令を獲得(6 月 15 日付)
  • ソニーユニバーサルワーナー の各カナダ法人を代表し、YouTubeSpotify から音源を抜き出すリッピング業者の遮断を 9 社の接続事業者に 2 年間義務づけ
  • ストリーミングが録音音楽収益の 75% 超を占めるなか、海賊版対策が個別訴訟から接続インフラ(ISP)での遮断へと移る転機

概要

海賊版との戦いの舞台が、個別のサイトからインターネットの配管そのものへ移っている。カナダ連邦裁判所は 6 月 15 日、音楽業界として国内で初めてとなるサイトブロック命令を出した。申し立てたのは Music Canada。大手レコード会社のカナダ法人を束ねる業界団体だ。

遮断の対象は、YouTubeSpotify などの正規サービスから音源を抜き出す「ストリームリッピング」業者だ。ベル(Bell)やロジャーズ(Rogers)を含むカナダの主要な接続事業者 9 社が、Y2mate、YTmp3、Savefrom といった該当ドメインを DNS(ドメイン名の名前解決)の遮断や転送で 2 年間ブロックする。

Music Canada は ソニーユニバーサルワーナー の各カナダ法人を代表する。同団体はこれを「カナダ音楽業界として初の」措置だと位置づけ、配信時代の権利をどう守るかという問いに、司法を通じた答えを示した。

経緯

ストリームリッピングとは、YouTubeSpotify のような正規サービスの楽曲 URL を第三者のサイトに入力し、その音声を恒久的なファイルへ変換してダウンロードできるようにする手口を指す。本来なら再生のたびに権利者へ入るはずのロイヤルティ(楽曲使用料)を、丸ごと迂回してしまう。Music Canada はこれを「今日もっとも広がった音楽海賊版の一つ」と呼ぶ。

放置できない理由は、収益構造の変化にある。同団体によれば、ストリーミングは今やカナダの録音音楽収益の 75% 超を占める。再生から得るお金が業界の土台になったぶん、その再生を「無料の永久ファイル」に変えるリッピングは、根幹を直接削ることになる。閉鎖前のあるリッピングサイトは、月におよそ 170 万回の訪問を集めていた。

今回の命令に先立ち、Music Canada は警告状(侵害をやめるよう求める通知)で四つのサイトを閉鎖させていた。だが業者は別ドメインへ移って活動を続ける。そこで残る相手を、接続事業者による遮断という強制力で止めにいった。命令には、後から現れる「そっくりの」コピーサイトを、改めて本格的な審理を開かずに遮断リストへ加えられる拡張条項も盛り込まれた。

構造解釈:海賊版対策の「インフラ遮断化」

ここで起きているのは、海賊版対策の「インフラ遮断化」である。権利者が侵害サイトを一つずつ訴えるのではなく、利用者とサイトの間にある接続事業者にアクセスを止めさせる。標的は個々の業者でなく、そこへ至る経路そのものに移った。

この手法は世界では珍しくない。英国などでは早くから、裁判所が接続事業者に海賊版サイトの遮断を命じてきた。カナダでも映像の違法配信をめぐる先例はあったが、音楽業界が自ら勝ち取ったのは今回が初めてだ。配信依存度が一定を超えた市場では、リッピングの被害が無視できない規模になり、個別訴訟では追いつかない。だからこそ、権利者はより上流の接続インフラに介入点を求める。

もっとも、遮断は万能ではない。DNS の遮断は、暗号化された DNS や VPN、新しいミラーサイトで回り込まれやすい。今回の拡張条項は、まさにこの「いたちごっこ」を見越し、コピーサイトを素早く追加できる設計になっている。遮断と回避の追いかけっこを、一回の訴訟で終わらせず、継続的な運用へと作り替えた点に、この命令の実務上の新しさがある。

示唆:配信時代の権利保護はどこへ向かうか

問われているのは、配信が音楽の主たる収益源になった時代に、権利保護の仕組みをどう設計するかだ。再生がお金を生む構造である以上、その再生をすり抜ける行為は、業界にとって看過しにくい。司法を通じた接続事業者の遮断は、その有力な歯止めの一つになる。

一方で、接続インフラへの介入には別の論点もついて回る。遮断の負担を負うのは接続事業者であり、過剰な遮断や表現の自由への影響をどう線引きするかは、運用の透明性にかかる。日本でも違法サイトの遮断は長く議論の的であり、カナダの一件は、権利者・接続事業者・利用者の利害をどう均衡させるかという普遍的な問いを、配信時代の文脈で改めて突きつけている。

WATCHLIST — 次に追う 3 つ
  1. 拡張条項により遮断ドメインがどこまで増え、ミラーサイトや暗号化 DNS・VPN での回避とどう競り合うか
  2. 同型の司法ブロックが、米国など他国の音楽業界の反海賊版戦術へ波及するか
  3. 接続事業者のコスト負担や、過剰遮断・表現の自由をめぐる懸念がどう議論されるか

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