音楽家組合が UMG・WMG を提訴 — AI 和解金、演奏者への分配巡り「団体協約違反」
レーベルは生成 AI 各社と和解し、新たな収益源を手にした。だが、その和解の原資となった録音を演奏したセッション奏者に分配が下りていない——音楽家組合がそう主張し、団体協約違反で大手 2 社を訴えた。Suno・Udio のライセンスで生まれた上澄みを「誰が取るか」が、司法の場に移る。
概要
米国の演奏家の労働組合が、大手レコード会社 2 社を訴えた。6 月 5 日、AFM(全米音楽家連盟)は UMG と WMG を団体協約(雇用主と組合が結ぶ労働条件の取り決め)違反で連邦地裁に提訴した。争点は、両社が生成 AI 音楽の Suno・Udio と結んだ和解とライセンス契約で得た収益を、その原資となった録音を演奏したセッション奏者に分配していない、という点である。
訴状で AFM は、被告 2 社が「AFM が代表する音楽家が関与した録音を、補償も明示もないまま 2 つの AI 企業にライセンスした」と主張する(Billboard が訴状を入手し報道)。さらに組合は、どの録音が学習データに投入されたのかの開示も求めたが、UMG・WMG はこの情報を提供していないとする。UMG はこれに対し、AFM が団体交渉の過程でこの提訴を選んだものだと述べ、問題は引き続き団体交渉を通じて解決すべきだと反論した。あわせて同社は、AI 時代にアーティストと作曲家の権利保護と利益促進の最前線に立ってきたと主張している。
経緯
レーベルと生成 AI の対立は、2025 年秋に和解局面へ転じた。世界最大の音楽企業 UMG は 2025 年 10 月 30 日、Udio との訴訟を和解し提携を発表。学習を自社のライセンス済みカタログに限定し、生成物をプラットフォーム内に閉じる「壁に囲われた庭(walled garden)」モデルを打ち出した。WMG も 11 月に Udio と提携し、続いて Suno と和解した初のメジャーとなった。Suno との契約では、有料会員に限り生成物をプラットフォーム外で利用できるとするライセンス学習モデルへ移行する。この契約は、アーティストが自らの名前・肖像・声・楽曲を AI 生成に使われるか否かを選べる「オプトイン(事前同意した者だけが対象になる方式)」型の保護も掲げた。
一方、Sony Music は和解せず訴訟を続ける。UMG と Sony は 2026 年 5 月、Suno が無断学習したとする録音の対象を 6 万曲超へ拡大する申立を行った。米著作権法の法定賠償は 1 作品あたり最大 15 万ドルで、これに照らせば賠償総額は 90 億ドルを超えうる規模となる。レーベル側が和解と訴訟を使い分けるなか、AFM は 3 月の集会で「同意・対価・クレジット(Consent, Compensation, and Credit)」を掲げ、大手各社との団体交渉を続けてきた。今回の提訴は、その交渉が司法に持ち込まれた帰結である。
構造解釈:AI ライセンスの「川上」から「川下」へ
これまで AI ライセンスを巡る報道の焦点は、もっぱら「川上」にあった。レーベルが AI 企業を訴え、和解し、自社カタログを学習用に貸し出して新たな収益を得る——その構図である。今回 AFM が突いたのは、その収益が「川下」の実演家まで下りているか、という別の論点だ。
ここで効いてくるのが、レーベルの二重の立場である。レーベルは録音原盤の権利者であると同時に、その原盤を AI に貸し出す再ライセンサーでもある。原盤権者として和解金とライセンス料を受け取るが、その録音で実際に演奏したセッション奏者への支払いは、団体協約が定める「新たな用途(new uses)」への対価として別建てで発生するはずだ、というのが組合の論理である。AI 学習という用途がこの「新たな用途」に当たるかどうかが、争いの核心となる。
この二重性は、レーベルが掲げる「保護」の射程にも表れる。WMG が Suno との契約で打ち出したオプトイン保護は、名前・肖像・声・楽曲という「個」が識別される表立ったアーティストを守る枠組みだ。だが、録音でバックを支えたセッション奏者の多くはクレジットされず、この同意の枠組みの外に置かれる。彼らの演奏は和解の対象となった原盤に確かに刻まれているのに、である。AFM が突くのは、まさにこの「守られる側」と「素材として供される側」の線引きだ。
問題を複雑にするのが情報の非対称である。どの録音が学習データに使われたかをレーベルが開示しなければ、組合は分配されるべき対価の規模を検証できない。和解金の総額も対象録音の範囲も非公開のまま和解が進む構造は、実演家を「自分の演奏がいくらで売られたか分からない」立場に置く。透明性の欠如そのものが、分配以前の争点として浮上している。
示唆:実演家への分配が次の戦線
AI と権利者の和解が一巡し、論点は「権利者と AI」から「権利者と実演家」へと移りつつある。レーベルが AI から得た上澄みを、その音を作った人々とどう分けるか。この問いは楽曲のみならず、AI 学習に素材を供給するあらゆる創作領域——声優、俳優、脚本家——に共通する。AFM が SAG-AFTRA など他の労組と連合を組む背景もここにある。
- 団体協約の「新たな用途」条項が AI 学習を含むと司法が判断するか、それとも団体交渉で決着するか
- 学習対象録音の開示が命じられるか。透明性の前例ができれば、和解の非公開慣行そのものに影響する
- 未和解の Sony がどの条件で決着し、その条件が実演家への分配をどう扱うか。和解の「ひな型」に分配条項が組み込まれるかが業界全体の標準を左右する
— Sources / 情報源
- American Federation of Musicians: AFM Rally for AI Protections & Fair Pay(組合の AI 方針・一次)
- Billboard Pro: Musicians Union Sues UMG, WMG Over AI Settlements(訴状を入手・独占)
- The Hollywood Reporter: Musicians' Union Sues Major Labels for Artists' Share of AI Settlement Money
- Music Business Worldwide: Warner Music Group strikes 'landmark' deal with Suno(和解の背景)
- The Hollywood Reporter: Universal Music Group Announces Settlement With Udio(和解の背景)
- AfroTech: UMG, Sony Request More Than 61,000 Recordings Added to Suno Lawsuit(係争の規模)